「LGBTは国立大に相応しくない」と訴え棄却 インドネシア、大学文芸誌の同性愛小説で学生敗訴
大学の措置は妥当で適法と裁判官
州行政裁のブディマン・ロディング裁判官は判決の中で「問題の小説はポルノグラフィとLGBT(性的少数者)に関わる問題を提起したものであり、国立大学という公共機関としては相応しいものとは言えず、学長が取った措置には正当性が認められる。学長は大学内の教育、研究などに関して規則に従ってその権利を行使することができる。学生はそうした学内規定、規則、決定などに敬意を示し、従わなくてはならない」として大学側の「ウェブサイトの閉鎖」「編集委員の解任」といった措置を妥当で正当なものと認定、原告のヤエルさん側の訴えを全面的に棄却するとともに訴訟費用として約32万ルピア(約23米ドル)の支払いを命じた。
これに対しヤエルさんら原告側は「裁判所の決定は一般論や社会的規範をなぞっただけで大学内の言論の自由、表現の自由を支持するものではなく、全く間違ったものである」と強く反発している。
判決を不服とする場合、原告側は14日以内に州高等行政裁判所に控訴することができるがヤエルさんたちは現時点では控訴するかどうかは「弁護士らと協議中である」として明らかにしていない。
インドネシア、LGBTを巡る厳しい現実
今回の裁判所の決定は、インドネシアが直面するLGBTへの差別を追認し、言論・表現の自由といった多様な価値観を認める国是への挑戦ともいえる。
イスラム教徒が人口の約88%と圧倒的多数を占めながらもイスラム教を国教とはせず、キリスト教、ヒンズー教、仏教なども同じように容認して多民族、多言語、多宗教、多文化の国民を統一国家としてまとめるために国是として「多様性の中の統一」「寛容性」を掲げているのがインドネシアである。
しかし最近はイスラム教保守派による圧倒的多数を背景にした「暗黙のイスラム優先」「多数派のごり押しと少数派の忖度」が各分野で蔓延する傾向が強まっており、インドネシア各地でLGBTへの差別、人権侵害が頻発しているという現実がある。
また国会での審議が予定される「刑法改正案」には正副大統領、閣僚などに対する侮辱や批判に対する罰則強化が盛り込まれるなど「表現・言論の自由」に加えて「報道の自由」への制限も強化されようとしている。
10月23日に発足したジョコ・ウィドド大統領による2期目の新政権は、こうした国としての価値観、アイデンティティーなどの難しい問題との取り組みも求められている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など