イラクで何が起きているのか 反政府デモ、SNSで宗派超え拡大
イラクで続く反政府デモはここ数日間の参加者と治安部隊の衝突によって新たに数十人が死亡し、政府当局にとって予想外の深刻な事態となっている。写真は燃えるタイヤの間を走るデモ参加者。10月3日、バグダッドで撮影(2019年 ロイター/Wissm al-Okili)
イラクで続く反政府デモは、ここ数日間の参加者と治安部隊の衝突によって新たに数十人が死亡し、政府当局にとって予想外の深刻な事態となっている。
特定の政治利害や宗教対立とは異なるといわれるその背景や実態、今後予想される展開などをまとめた。
<なぜ人々が抗議しているのか> これほど大規模な抗議活動が前回起きたのは1年以上前。
過激派組織「イスラム国(IS)」の崩壊から2年が経過し、イラクが豊富な石油資源を抱えているにもかかわらず、なお大半の地域で暮らしの悪化が続いていることに、国民がうんざりしているからだ。
ここ数年で治安は改善したとはいえ、破損したインフラは再建されず、雇用の機会は乏しい。若者は、自分たちを代表していない腐敗した指導者たちがこうした状況の元凶だと非難している。
生活環境悪化の理由は
近隣諸国との何十年にもわたる戦争、国連の制裁、米国による2度の侵攻、宗派対立による内戦、2017年のIS崩壊といった歴史を歩んできたイラクにとって、現在は1970年代以降で初めて長期にわたって平和を享受し、自由に貿易ができる状況にある。
しかし各種インフラは老朽化、劣化が進み、戦争で被害を受けた都市はまだ復興しておらず、まだ街頭で武器を行使する武装グループが存在する。
汚職の風習はサダム・フセイン時代以来根強く、同時代が終わった後に登場してきたさまざまなイスラム教政党によって一層強固になった。
今回のデモのきっかけと組織者は
このデモは、誰か特定の政治グループが組織したようには見えない。抗議を呼び掛けるソーシャルメディアの投稿がどんどん増加し、実際の参加者は治安部隊が驚くほどの多さになった。
不十分な行政サービスや働き口がないことが、国民が怒っている主な理由だ。政府の一連の措置、特に人気のあった有力軍人を明確な説明もなく降格させたことにも抗議の声が上がっている。