イラクで何が起きているのか 反政府デモ、SNSで宗派超え拡大
イラクで大規模デモは久しぶりか
昨年9月、主に南部の都市バスラで大きなデモが起きて30人近くが死亡した。それ以降は散発的なデモが発生しているものの、今回のような規模にはならなかった。昨年10月にアデル・アブドルマハディ氏が首相に就任してからは、初めての大規模となった。
デモが拡大する可能性や付随するリスクは
政府と治安当局の対応次第で状況は変わってくる。5日時点で80人を超えている死亡者がさらに増えれば、国民の怒りが高まるだろう。一方で強力な鎮圧活動が、人々をおびえさせてデモ参加者が減る可能性もある。
多くの国民は、昨年9月のバスラのデモで暴力的な取り締まりが行われた背後にはイランが支持する武装民兵グループがいたと信じている。それ以降、デモ参加者は少数にとどまっていた。
民族主義や地域の分離独立などを掲げる武装グループがデモに関与してくれば、事態が悪化しかねない。
政府はデモ隊の要求に応じるか
政府は既に国民の雇用機会を増やすと約束。アブドルマハディ氏は、大卒者に雇用を請け合うとともに、石油省などの政府機関に対し外国企業との業務契約で国内労働者に50%の仕事を割り当てるよう指示した。
前政権は昨年、医療制度や電力供給などの改善を約束していた。
宗派対立に起因する騒乱か
そうではない。イスラム教スンニ派の過激主義を標ぼうするISに支配された経験を持つ大半の国民は、宗派対立を避けようとしている。今回のデモは、経済や暮らし向きの悪化への抗議だ。ほとんどが首都バグダッドやシーア派が圧倒的な南部で起きているが、そこではあらゆる民族や宗派を巻き込んでいる。怒りの矛先は政治指導層であり、特定の宗派ではない。
デモが政府に及ぼす影響は
今回のデモには、どの政党や政治団体、過去に反政府活動を組織してきたシーア派聖職者モクタダ・アルサドル師のグループでさえ、公には参加していない。このため政府はデモを抑え込むのに苦戦するかもしれない。
デモが拡大した場合、政府がどのような手を打てるかもはっきりしない。これまでのところ政権は要職者の更迭や辞任には言及しておらず、アブドルマハディ氏を擁立し、政治的立場の弱い同氏をコントロールしている諸勢力は、今後もこうした状態を維持したいと考えそうだ。
※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡