最新記事

環境

急増する欧米からインドへの廃タイヤ輸出 国際的な規制の甘さが後押し

2019年10月28日(月)18時27分

英国が最大の輸出国

ナビプールのようなインドの村で最期を迎える廃タイヤの多くは、英国生まれだ。インドが輸入した廃タイヤのうち、英国からのものを見ると、2013年が4万8000トン。これが2018年には26万3000トンに増加した。世界中で取引される廃タイヤの13%に相当する。

ほとんどの欧州諸国はタイヤメーカーや販売会社に回収・処分を義務づけており、自国内でリサイクルするケースも増えている。しかし、英国にはそうした義務付けがないため、廃タイヤを回収し、他国に輸出する認可を簡単に取得できる。

英環境・食糧・農村地域省(DEFRA)は、バーゼル条約の規定を完全に履行しているとしつつも、廃タイヤについてはもっと対策が必要だとしている。同省は、メーカーの責任を拡大し、輸出の監視強化を計画しているという。

廃タイヤの輸出入業者たちによれば、インド国内のタイヤ引き取り手は建設材料としてタイヤを破砕するリサイクル業者、低コスト燃料としてセメントやレンガの製造に利用する企業、そして合法・非合法の熱分解処理プラントに分かれる。

インド自動車タイヤ製造業協会のビネイ・ビジェイバルジア副会長によれば、同協会では、輸入廃タイヤのほとんどは最終的に熱分解処理プラントに行き着くと推測されるという。

環境保護団体や熱分解処理プラントの近隣住民からの反発が強まるなかで、インドは最も先端的なものを除いて全面的に熱分解処理を禁止することを検討している。禁止案については、インド環境裁判所が来年1月に判断を示すとみられている。

呼吸困難、目に炎症

今から6年前、ニューデリーの南70キロに位置するナビプールに熱分解処理プラントは1つも存在しなかった。今は10カ所を数え、住民によれば、ほとんどが人目を避けて夜間に操業しているという。

ロイターは村内の小規模プラント3カ所に足を運んだ。

あるプラントでは、「ドイツ製」、「米国製」と刻印されたタイヤが雑然と積まれ、パイプから濃い廃液がポタポタと流れ落ちていた。

労働者は何の安全装備も身につけておらず、肌や衣服は黒いすすまみれになっていた。オーナーのパンカジ氏によれば、輸入商社が海外から輸入した廃タイヤを売ってくれるのだという。

村の住民は、熱分解処理プラントが建ち始めてから、呼吸困難、目や喉の炎症に悩まされている話す。農家は、土壌に黒い粉じんが混ざっているのに気づいているという。

ロイターは、こうした主張を個別に検証することはできなかった。村のプラント事業者が認可を得ているかどうかも確認できなかった。

ナビプールで建設機械のリース業を営むシバ・ショウダリーさんは、「地元で中古タイヤは手に入らない。彼らは外国から輸入している」と話す。「外国は自国をきれいにしようとして、自分のゴミを我々のところに投棄している」

(翻訳:エァクレーレン)

[ナビプール(インド)/クライ(マレーシア) ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中