急増する欧米からインドへの廃タイヤ輸出 国際的な規制の甘さが後押し
最新鋭の処理プラントを建設するには数千万ドルもかかるが、簡素な中国製の熱分解処理設備であれば、インターネットで3万ドルもあれば購入できる。
インド政府の監査によれば、2019年7月の時点で認可を受けた熱分解処理プラントは全国に637カ所あり、そのうち270カ所が環境基準を満たしておらず、116カ所が閉鎖に追い込まれた。
このときの監査によれば、大半の事業者は原始的な設備を用いており、作業員は微粒子炭素に暴露、周辺に粉じん、油脂、大気汚染物質が漏れ出している。業界関係者によれば、これ以外にも無認可の熱分解処理事業者がインド全体で数百社も操業しているという。
同じく業界関係者によれば、マレーシア南部ジョホール州でも熱分解処理プラントが過去10年間に急増しており、船舶向け燃料を供給しているという。
ロイターが取材したジョホール州クライのプラントでは、すすまみれになったバングラデシュ系の移民が、オーストラリアとシンガポールから輸入された廃タイヤを中国製の焼却炉に運び入れていた。彼らは焼却炉に隣接する宿舎に住み込みで働いている。
サムという呼び名だけ教えてくれたプラントのオーナーは、「古タイヤの行き先など誰も知らない」と言う。「だが私の工場が存在しなければ、古タイヤはいったいどこに行くのか」
彼は操業の認可を得ていると話していたが、ロイターは確認できなかった。
インドやマレーシアなどで熱分解処理の影響が広がっていることについて、廃タイヤを輸出する側の国でも関心が高まりつつある。
東南アジア、インドに廃タイヤを多く輸出するオーストラリアは8月、期限を明示しないながらも、廃タイヤを含む廃棄物輸出を禁止する意向を示した。
廃棄物削減問題を担当するトレバー・エバンス報道官は、オーストラリアは「一部の輸入国における持続可能性のない廃タイヤ処理への告発を認識している」とした上で、「そのような営為に関与することを望まない」と述べた。
インド国内の健康問題を調査する「インド州レベル疾病負担イニシアチブ」を主宰するラリット・ダンドナ氏によれば、適切な管理を行わずに廃タイヤを燃やすと、多量の有毒化学物質、ガス、粒子状物質が周囲に放出されるという。
ランドナ氏によれば、廃タイヤを焼却した煙に接した人への短期的な影響として皮膚炎や肺感染症が見られ、暴露が長期にわたった場合、心臓発作や肺がんの恐れがあるという。
米環境保護庁(EPA)をはじめ、世界各国の政府機関も似たような結論に達している。EPAは1997年にまとめた報告書で、廃タイヤ焼却による排出物には、ダイオキシンや硫黄酸化物のほか、水銀やヒ素などさまざまな金属が含まれるとしている。