最新記事

日本経済

米中貿易戦争で日本が受ける最大級のとばっちり

2019年10月18日(金)16時40分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

米中の覇権争いは世界と日本の経済にとっては大きなマイナスだ Saul Loeb-Pool-REUTERS

<サプライチェーン網が米中経済をしっかりと結び付けている今、対中貿易額が大きい国ほど米中貿易戦争による痛手も大きくなる>

貿易戦争は「勝者のいない戦争」だ。当事者双方が経済的な損失を受ける上、無関係なほかの国まで巻き添えを食らう。

今の米中貿易戦争は間違いなく、第二次大戦後で最も激烈な貿易戦争だろう。アメリカの同盟国も含め多くの国々がとばっちりを受けている。

なぜか。経済のグローバル化が進んだ今、世界中に張り巡らされたサプライチェーン網が米中経済をしっかりと結び付けているからだ。対中貿易額が大きい国ほど、米中貿易戦争による痛手も大きくなる。

日本にとって中国は最大の貿易相手国。そのため日本は、先進国の中でも最大級のとばっちりを受けることになる。

とばっちりには直接的なものと間接的なものがある。アメリカに輸出される中国製品には、日本製の電子部品や材料が多く使われている。アメリカが中国製品に制裁関税をかければ、実質的には日本製品にも高関税がかかると考えていい。

例えば、中国の輸出に占める他国から輸入した部品や材料の割合は、金額でざっと33%。2017年の日本の対中輸出は約1360億ドルで、そのうち少なくとも約450億ドル分が中国から他の国々に輸出されているとみていいだろう。中国の輸出に占める対米輸出の割合は20%だから、450億ドルの20%に当たる約90億ドルの日本製品に高関税がかかる計算になる。

直接的なとばっちりにはもう1つ、日本企業が中国からの工場撤退を決めた場合にベトナムやインドなどへ移転する際の費用がある。サプライチェーンの再編には多額のコストがかかる。移転先の国に新たに工場を建設し、働き手を育成しなければならない。移転先の国のインフラが未整備であれば、輸送コストなども中国より高くつく。

インバウンド客も減る

間接的なものとしては、世界経済の成長が鈍化し、日本製品やサービスの需要が減ることが挙げられる。いま中国は世界経済の最大の牽引役で、世界経済の成長への貢献度は28%に及ぶ(アメリカは11%足らずだ)。

貿易戦争で中国経済が減速すれば、世界経済の成長にもブレーキがかかり、結果的に日本製品の需要も低下する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中