東電の原発事故賠償、審査はザルで、不正が横行していた
ところが岩崎はそののち、せっかくつかんだチャンスも、それどころか社会的立場すら失うことになる。賠償請求に詳しい岩崎を味方につけ、詐欺をしようと画策する人物に騙され、罪を着せられてしまったのである。
岩崎は、のちに詐欺事件で逮捕される村田という人物と交流を持っていた。といっても犯罪の片棒を担ごうとしていたわけではなく、詐欺とは知らないまま申請書類についてアドバイスをしただけだという。しかし警察は、岩崎が村田に対して詐欺の指南をしたとして逮捕したのだった。
非常に後味の悪い事件であり、読み終えたあともモヤモヤとした思いが残った。だから何度か読み返したのだが、岩崎に対する著者の思い入れが少し大き過ぎるようにも感じた。とはいえ、常に相手の立場に立って物事を考えることのできる岩崎の人間性が、本書の鍵になっていることも事実だ。
だから、スタンスとしてはこれでいいのだと思う。
それに、われわれが知っておくべきは、あのときこういうことが起きていたという事実である。地震と原発事故から8年半が経過し、復興もままならない状態のまま、来年に迫った東京五輪の話題ばかりが取り沙汰されている今だからこそ、その事実から目を背けてはならない。
そんなことを、本書は改めて実感させてくれるのだ。
『黒い賠償』
高木瑞穂 著
彩図社
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
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