知っておきたい公的年金の将来見通し──保険料の引上げ停止がもたらす未来
注目点2:厚生年金の適用拡大
前回(2014年)の財政検証からは、現行制度の将来見通しに加えて、制度改正案の影響を見るための試算(オプション試算)も行われている。今回は、A(厚生年金の適用拡大)とB(高齢期の加入と受給の見直し)とに整理されている。
このうちA(厚生年金の適用拡大)は、勤め人であるにもかかわらず現在は厚生年金の対象外の人たちを新たに対象にして、その人達が基礎年金に加えて厚生年金も受給できるようにする見直しである[図表5・6]。
特にA-1やA-2では、現在は国民年金保険料を払っているパート労働者の多くが、個人の保険料負担を増やさずに年金受給を充実できる[図表7]。企業負担が増えたり、現在は保険料を負担していない専業主婦パートが適用を逃れるために就業時間を短縮するという懸念もあるが、ここ数年の骨太方針に盛り込まれてきたため、拡大を前提として、どの基準がどう拡大されるのかが注目される。
注目点3:高齢者の就労と年金
オプション試算のB(高齢期の加入と受給の見直し)は、高齢者の就労と年金の関係の見直しとも言える。具体的には、加入期間の延長(B-1・3)と就労促進策(B-2・4)に整理できる[図表8]。
B-1は、65歳への雇用延長が広がる中で、基礎年金の拠出期間をこれと揃えようという発想である。それと同時に、拠出期間が増えた分だけ基礎年金が増額されるため、前述した基礎年金の水準低下への対策ともなる。
B-3は、厚生年金の加入期間が増えることで年金額が増加するが、保険料負担が伴うため就労を抑制する懸念がある。そのためこの案は、次のB-2の代替財源としての案かもしれない。
B-2は、いわゆる「働くと年金が減る仕組み」のうち65歳以上を対象とした部分の廃止や緩和である。就労を促進する可能性はあるが、(1)現在の対象者は就労者の18%に過ぎず、かつ月収70万円以上が多い、(2)給付が増えるため年金財政が悪化し、将来世代の給付をより低下させる、という性格もあるため、見直しの是否を巡って経団連と日本商工会議所とで意見が分かれている。
B-4は、繰下げ受給によって、給付水準の引上げを可能にする案である。基本的に年金財政に中立的であるため実施のハードルは低いが、(1)現行制度の利用者は1%しかおらず、見直しの効果が疑問、(2)現行制度でも65歳まで働いて67歳まで繰下げれば、現在の高齢者と同等の給付水準になる、(3)遺族年金は増額されないため、本人死亡時に年金額の落差が大きくなる、という課題がある。
2019年6月の骨太方針では、年金の改正は2019年末までに結論を得るとしている。今後議論が進む見込みだが、残された時間は短い。
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。
[執筆者]
中嶋 邦夫
ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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