最新記事

韓国

韓国で広がるアフリカ豚コレラ感染......南北境界線の一般開放を中断

2019年10月16日(水)17時30分
佐々木和義

北朝鮮から韓国へ伝播したとされている...... 韓国坡州市 Yonhap via REUTERS

<韓国でアフリカ豚コレラが確認され、非武装地帯(DMZ)の一般開放が相次いで中断されるなど、その影響が広がっている......>

韓国で豚肉の価格が上昇している。韓国北部の京畿道坡州市や漣川(ヨンチョン)郡、仁川の江華島でアフリカ豚コレラが確認され、農林畜産食品部は1万頭あまりの殺処分を決定し(6万頭以上の殺処分予定ともいう)、一時移動停止命令を発令した。発症地域の観光行事が中止や縮小に追い込まれるなど、影響が広がっている。10月9日以降は、新たな発症は確認されていないが、当局はなお危険な状況にあるとして防疫に力を注いでいる。

東アジアで感染が報告されていないのは日本と台湾のみ

アフリカ豚コレラ(ASF)は豚やイノシシのウイルス性感染症で、40度から42度の高熱や食欲不振、起立不能、嘔吐、皮膚出血などの症状が現れる。人体には無害だが、有効なワクチンはなく、致死率は100%近い。1912年にケニアで発見され、英国の獣医病理学者モンゴメリーがAfrican Swine Fever(アフリカ豚コレラ・ASF)と命名した。

ASFは1957年にポルトガルとスペインに上陸し、2007年に黒海沿岸のジョージアで確認された後、ロシアにも拡がった。2018年8月には中国で発症が確認され、100万頭を越す豚が殺処分された。2019年5月、北朝鮮で見つかり、韓国でも確認されたいま、東アジアで感染が報告されていないのは日本と台湾のみとなっている。

2019年9月17日、京畿道坡州市にある養豚場で発症が見つかったのを皮切りに、仁川江華島など計13箇所で感染が報告された。韓国農林畜産食品部は、全国の養豚場や飼料工場、出入り車両などに移動制限を発令し、京畿道、仁川市、江原道の重点管理地域に消毒車両303台を投入して関連施設や主要道の消毒を行った。発症が確認された養豚場から半径3キロ以内にある施設などおよそ600箇所で精密検査を行い、命令に違反した車両3台を摘発している。

北朝鮮から韓国へ伝播した?

韓国への感染経路は明らかになっていないが、北朝鮮から伝播したという見方が有力だ。南北間の流通はなく、国防部もイノシシなどが北から越境した例はないとしているが、南北国境の非武装地帯(DMZ)で野生イノシシの死骸が発見されており、環境部はASFに感染したイノシシの死骸がイムジン河を流れてきた可能性を指摘する。発症が国境に隣接する地域に限られているからだ。

北朝鮮の畜産業は、公式には国営と農業協同組合の共同畜産だが、個人副業が少なくないと専門家は指摘する。飼料の供給不足で国営や協同農場の生産能力が大きく落ちており、当局が個人畜産を推奨しているというのだ。

牛は中央が管理するが、豚は個人飼育が可能で、豚1頭でコメ100キロを入手できる。農村はもちろん、多くの都市でベランダや便所などで育てられており、個人副業が北朝鮮の市場で取引される豚肉の80%から90%を占めるとさえいわれている。有名無実化した衛生管理制度のもと、非衛生な環境で育てられた豚から感染した野生のイノシシが、DMZやイムジン河を通って越境入国した可能性が高いのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税受けベトナムに生産移転も、中

ビジネス

アングル:西側企業のロシア市場復帰進まず 厳しい障

ワールド

プーチン大統領、復活祭の一時停戦を宣言 ウクライナ

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中