保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)
THE COLLAPSE OF THE CONSERVATIVES
最後に、私は、物書きとして2000年代後半から10年代初頭までの7年ほど、この保守業界に身を置いていた。保守と言うのなら、エドマンド・バークや福田恆存や小林秀雄の思想を読み込んでいる人ばかりだと思ったが、当時から全く違った。医師や公認会計士、税理士、企業経営者といった(特に医師が多かったが)社会的に地位のある人が根拠なしに隣国と隣国人を差別する。「正論を言い続ければ、いずれヘイトはなくなる」と思っていたが甘かった。彼らは基本的に学習しないし、虫食い状の歴史知識を正統的な学問や先行研究から穴埋めしようという努力も一切しない。韓国が韓国が、というわりに韓国に行ったことが一度もない。
いまだ日韓併合は合法で日本は朝鮮を植民地支配していない、というオカルト雑誌でも取り上げないトンデモ説をかたくなに信じて疑わない。自称保守系論壇誌は完全に韓国差別雑誌に成り下がり、平気で「韓国が消えても誰も困らない」などの特集を組み、零細出版社はカネのために『韓国人に生まれなくてよかった』というタイトルからしてモロに差別の出版行為を平然と続けている。
私はこんな業界がほとほと嫌になったし、一時でもこの業界にいた自分を恥じている。本当にばからしく、彼らに更生の余地はない。
「保守」とは本来、人間の理性に懐疑的で、社会の急激な改変や改良を嫌い、歴史や経験、常識(コモンセンス)に価値判断の基準を定めるという生活姿勢そのものを指す。もうそんな本来の意味での「保守」は、絶滅危惧種である。私はたとえ絶滅しようとも保守の本懐を曲げないで死にたい。
(筆者の著書に『ネット右翼の終わり』『左翼も右翼もウソばかり』など。11月に小説『愛国商売』を刊行予定)
<本誌2019年10月15日号掲載>
【参考記事】日本に巣食う「嫌韓」の正体
※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡