保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)
THE COLLAPSE OF THE CONSERVATIVES
チャンネル桜が保守とネット右翼をブリッジさせたことにより、保守側にも変化が訪れた。それまで封書、機関紙、ファクスがコミュニティー間の通信ツールだったものが、一挙に電子化・近代化されたのである。産経新聞や正論に寄稿しても、熱心なファンから激励の封書やハガキが1週間に数通来るのが関の山だった保守業界に、動画へのコメントという形で大量の肯定的反応が「瞬時に」「即座に」あふれ返る。
保守の古老たちは有頂天になる。それまでフジサンケイグループの資本関係におもんぱかってネット右翼と距離を置いていた論客たちが、ネットからの反応に狂喜乱舞し、フジテレビ以外の地上波局、産経新聞以外の大新聞への批判、そして嫌韓の大合唱に手を染めていくようになる。それが「NHK攻撃」(この流れから2013年にNHKから国民を守る党が生まれた)、「朝日新聞、毎日新聞攻撃」である。
こうして初手で、ネット右翼の動きを冷ややかに、冷笑的に見つめていた保守は、あっという間にネット右翼と融合し、差別を区別と言い直して、根拠のあるなしにかかわらず、嫌韓の渦の中に合流していったのである。
爾来、10年がたち、「保守」と「ネット右翼」は完全に一体となり、もはやその両者に特段の差違を見つけ出すことは難しい。唯一業界内で変化があったとすれば、かつて黄金時代を築いたチャンネル桜が事実上の内紛を起こしてCS放送から撤退し、代わってチャンネル桜の何百倍、何千倍という資本力を持った化粧品大手のDHCがCS放送局「DHCテレビ」を保有し、そこに視聴者層のほとんどが移行したことである。
現在、嫌韓を叫ぶ人々は2012年の私の調査時点からほとんどそのままスライドしている。つまり平均年齢は38.15+7で45.15歳。アラフィフが主力である。日本全体がそうであるように、嫌韓層もまた高齢化しているのだ。「あいちトリエンナーレ」で慰安婦像のアート展示に激高し、「ガソリンを持っていく」などと書き込みをして、威力業務妨害で警察に逮捕された2人の年齢はそれぞれ59歳と64歳。まさにネット右翼の中核層である。
本来の「保守」は絶滅危惧種もともと高齢者のサロン的要素があった保守と、それよりもやや若い(とは言ってもアラフォー)層を主体としたネット右翼が合体したことにより、嫌韓の主軸は高齢者となり、中高年で嫌韓が好発している。朝日新聞の調査でも、世代別に韓国への感情を聞いたところ、加齢すればするほど「嫌い」のパーセンテージが増える。「嫌韓はネット右翼の専売特許」どころか、「嫌韓は中高年男性の専売特許」と言える。日韓両国の若い層(30代以下)はお互いに双方の文化に好意的であり、嫌韓どこ吹く風である。