最新記事

北朝鮮

北朝鮮の新型潜水艦発射弾道ミサイル、本当の脅威度と実戦配備の壁

2019年10月7日(月)10時57分

北朝鮮は2日、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験を行ったとみられる。SLBMの開発は着手から比較的日が浅いが、核弾頭搭載に向けて急速に進んできた。今回の発射がSLBMであれば、この3年間では初めてとなる。写真はSLBMとみられるミサイル。10月2日、朝鮮中央通信が公開(2019年 提供写真)

北朝鮮は2日、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験を行ったとみられる。SLBMの開発は着手から比較的日が浅いが、核弾頭搭載に向けて急速に進んできた。今回の発射がSLBMであれば、この3年間では初めてとなる。

発射の数時間前に、北朝鮮は今週末に米国と核開発問題の協議を再開すると発表していた。

ミサイルの正確なタイプや、発射プラットフォームはなお不明だが、専門家は「既存の枠を超える」動きだったように見えると指摘した。

◎何が起きたか

2日午前7時すぎ、北朝鮮のウォンサン(元山)から北東約17キロの沖合でミサイルが発射された。ウォンサンは同国の軍事拠点の1つで、過去にもミサイルが発射されている。

日本政府は当初、2発のミサイルが発射されたと発表したが、その後1発が分離したと修正。日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したという。

韓国のチョン・ギョンドゥ国防相は、イージス艦がミサイル1発を探知し、飛距離は450キロ、最高高度は910キロで高い角度で飛距離を抑える「ロフテッド軌道」で打ち上げられたと説明した。

ミサイルを発射したのが潜水艦か、海上プラットフォームかは不明だ。

ある米政府高官は、当座の分析に基づくとミサイルは海上プラットフォームから発射され、潜水艦に搭載できる弾道ミサイルだとの見方を示した。

◎これで生じる新たな脅威とは

ミサイルが標準的な軌道で発射されていれば、飛距離は最長1900キロとなり、中距離ミサイルに分類される。韓国と日本の全土が射程内に収まる形。両国にとって近海に展開した潜水艦からのミサイルは、ミサイル防衛システムでの対応がより困難となる。

SLBMの脅威は潜水艦の航続距離次第でどんどん高まる。北朝鮮が保有する「ロメオ級」は約7000キロの航続距離を持つとみられ、片道ならハワイ近くまで到達できる。

ただロメオ級のエンジンはディーゼル式で非常に音が大きいので、探知されやすい。特に米軍は旧ソ連の潜水艦に数十年も対処してきたという経験がある。

◎北朝鮮のSLBM開発の経緯

北朝鮮がSLBMの開発に乗り出したのは2015年で、16年8月に1回目の発射を実施。2段階式固定燃料の「北極星」がロフテッド軌道で打ち出され、500キロ飛翔し、実験が成功したとみなされた。

それ以降実験の情報は聞かれず、北朝鮮は中長距離のSLBM開発を進めていた様子がうかがえる。

以前の発射実験は、ウォンサンからおよそ110キロ離れた港湾都市シンポ(新浦)で行われた。この地は北朝鮮の潜水艦部隊の大部分の根拠地となっているもようだ。

北朝鮮の潜水艦は総数こそ世界最大級だが、大半は小型か旧ソ連時代の古いタイプで、弾道ミサイル搭載能力があるのは1隻にとどまるとみられている。

同国は今年7月、金正恩朝鮮労働党委員長が大型の新造潜水艦を視察し、その実践配備が近いと表明していた。

専門家は、北朝鮮の国営メディアが公表した写真から、新造潜水艦はロメオ級を改良して外殻を拡大しただけで、より大きな新型ではないとの見解を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

戦後ウクライナへの英軍派遣、受け入れられない=ロシ

ワールド

ロシア、ウクライナ東部・南部のエネルギー施設攻撃 

ワールド

韓国、中国製鋼板に最大38%の暫定関税 不当廉売「

ワールド

米国務省、中国ファクトシート更新、貿易赤字・安保強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 7
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中