インドネシア、パプア巡り報道規制 K-POPや華流スターの偽SNSで情報操作も
当局にとっての「不都合な真実」とは
こうした情報を巡る当局と海外のメディアや支援組織のパプアを巡る動きはまるで「情報戦」の様相を呈しており、ワメナをはじめとする山間部で実際に何が起きているのか、外部に伝わらない状況が続いている。
辛うじて連絡が可能なパプア州の州都ジャヤプラの関係者にも断片的な情報しか届いていないのが実情で、ンドゥガ県など山間部では増員された軍部隊による独立派組織への掃討作戦が展開されているようで、深刻な人権侵害が起きている懸念が高まっている。
いずれも政府、治安当局にとっては「報道してほしくない都合の悪いこと」が起きていると支援団体などではみている。
大統領に真摯で根本的な対応求める
そんななか、地元メディア「テンポ」紙は10月10日、「パプア問題の誤解」と題する記事を掲載。
「パプア問題を政府は経済格差解消やインフラ整備などで解決しようとしているが、これは間違いである。パプア人の誇り、尊厳に敬意を払い、これまでの過去の人権問題の解決なしには平和を確立することはできない」と断じ、ジョコ・ウィドド大統領のパプア問題に対する真摯で根本的な解決の道筋を探る努力を促した。
9月23日以後のワメナでの騒乱状態に対しても「軍や警察の投入で事態は沈静化したかにみえるが、ワメナの人口の25%にあたる11646人の非パプア人が町を脱出した。これは非パプア人にとって依然として危険な状況にあることであり、こうした力での解決方法はもはや通用しない」と手厳しく政府の対応策を批判した。
こうしたメディアの批判があるなか、ジョコ・ウィドド大統領は10月11日、ジャカルタの大統領官邸にパプア人小学生を招いて歓談、パプア人との融和を演出してみせた。その席で10月20日の大統領就任式後に発表する新内閣閣僚リストに「少なくとも1人以上のパプア人の閣僚を登用する」との方針を明らかにした。
小学生との歓談、大臣登用そして情報操作による情報戦などがパプア問題の根本的解決にならないことは「テンポ」の指摘通りである。ジョコ・ウィドド大統領はパプア問題の根の深さ、深刻さを理解していないようで、10月20日からスタートする2期目の政権運営で「パプア問題」が大きな課題となることは確実とみられている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など