最新記事

中東

イスラエル総選挙後に待つネタニヤフの過酷な運命

2019年9月25日(水)16時50分
ジョシュア・キーティング

ネタニヤフ外しが現実となれば、汚職疑惑の追及は強まるだろう AMIR COHEN-REUTERS

<2度目も与野党とも過半数に届かないなかで「ネタニヤフ抜き大連立」構想が動きだす>

イスラエル建国以来、歴代最長の在任記録を更新中のネタニヤフ首相。つい最近まで不敗神話に彩られていたこの男が、今は決死の綱渡りを強いられている。9月17日に行われたやり直し総選挙で、政治生命も身の安全も、そして中東のみならず世界情勢の雲行きも怪しくなってきたからだ。

なぜか。4月の総選挙段階でも彼の権力乱用・汚職疑惑に対する検察の捜査は大詰めを迎えていたが、それでも与党リクードはベニー・ガンツ元参謀総長率いる中道政党連合「青と白」と同数の議席を獲得し、どうにか従来の右派連立政権を樹立できそうに見えた。

ところが、かつてネタニヤフの秘蔵っ子だった極右のアビグドル・リーベルマンが反旗を翻した。超正統派ユダヤ教徒だけに許される徴兵免除の特権を法律で制限しない限り自分の政党「わが家イスラエル」は連立に参加しないと言い出したのだ。この問題はネタニヤフにとってのアキレス腱。連立工作は失敗し、やり直し総選挙となった。

しかし今回も「青と白」の獲得議席は33で、リクードは31と伯仲した。連立の行方は読めない。議会の過半数は61議席だが、「わが家」を除く右派・宗教勢力は合計で55議席。対する中道・左派勢力は44議席だが、アラブ系統一会派「ジョイントリスト」はガンツによる組閣に賛同する意向を示している。前代未聞のことだが、ネタニヤフの続投を阻止するためだ。ただし、それでも議席数は57にとどまる。

つまり、どう転んでも連立工作は難航する。そしてカギを握るのはリーベルマンだ。

計算上、最も可能性が高いシナリオはリクードと「青と白」の大連立で、これはリーベルマンも支持している。過去にはリクードが左派の労働党と連立を組んだこともあるので、あり得ない話ではない。しかしガンツはネタニヤフの降板を大連立の条件としている。

トランプも見限ったか

ネタニヤフはこれまで何度も苦境を乗り切ってきたが、今回ばかりは容易に抜け出せそうにない。イスラエル検察は10月に事情聴取を予定しており、既に収賄罪での起訴を視野に入れているようだ。

入札で大物実業家などに便宜を図る見返りに本人と親族が高額な贈り物を受け取った疑惑、メディア報道に影響力を行使した疑いなど、検察は長年の捜査で立件の自信を深めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中