最新記事

イスラエル

選挙公約にパレスチナ人の土地併合を掲げるネタニヤフ

Netanyahu Plans to Annex Part of the West Bank

2019年9月12日(木)18時40分
ニコール・ストーン・グッドカインド

ヨルダン川西岸でイスラエル軍の催涙ガスから逃げるパレスチナ人活動家(3月29日) Mohamad Torokman-REUTERS

<自分の汚職疑惑をもみ消すこともできる首相の地位にしがみつき、選挙に勝ったらヨルダン川西岸を併合してみせるとアピール>

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は9月17日に行われる事実上のやり直し選挙で続投が決まれば、ヨルダン川西岸の一部地域、ヨルダン渓谷と死海の北部を併合すると、テレビ放映された演説で宣言した。ドナルド・トランプ大統領と米政府が取りまとめ中の和平合意案ができてから、調整するという。

<参考記事>イスラエル、ゴラン高原の入植地を「トランプ高原」と命名

「選挙で勝てば、何としても併合する。ここはわが国の東の国境であり、国を守る防壁だ」と、ネタニヤフは地図を指し示しながらそう説明した。ヨルダン川西岸の東端を切り取り、パレスチナの主要都市のエリコを、イスラエルの領土に取り残された陸の孤島にするつもりだ。面積は、パレスチナ自治区の一部であるヨルダン川西岸のおよそ30%に当たる」

ヨルダン川西岸はパレスチナ人も主権を主張しており、将来はここに独立国家を建設したい考え。それをネタニヤフは、米政府の承諾が得られれば、ヨルダン川西岸をすべてを併合する考えも明らかにした。

「すべての入植地にイスラエルの主権を適用できるよう、私に権限を与えてもらいたい。トランプ大統領に敬意を表し、彼の考えを聞くまでは、主権の適用を留保するつもりだ。トランプとの最高レベルの調整を経て、計画を実行したい」

今のところ米政府はネタニヤフの計画について一切コメントしていない。10日午後に行われたマイク・ポンペオ国務長官とスティーブン・ムニューシン財務長官の記者会見では、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激派組織ハマスの幹部らを制裁対象リストに加えることは発表されたが、併合についての言及はなかった。

「重大発表」と期待をあおる

ネタニヤフは4月に行われた総選挙の前にも、イスラエルのテレビ局「チャンネル12」のインタビューで、「主権を拡大するつもりだ。すべてのユダヤ人入植地を区別しない」と述べ、ヨルダン川西岸のイスラエル併合を約束した。この発言については、極右の票を得るための政治宣伝との見方が一般的だった。

ヨルダン川西岸はイスラエルとヨルダンの間に横たわる地域で、250万人前後のパレスチナ人と40万人のユダヤ人が暮らす。1948年の第1次中東戦争でヨルダン領となったが、1967年の六日戦争(第3次中東戦争)でイスラエルが占領。1993年のオスロ合意でパレスチナの暫定自治が認められたが、今なおこの地域の多くはイスラエルの支配下にあり、ネタニヤフは全域を併合すべきだと主張。ユダヤ人の入植を強力に後押ししているが、占領地の入植と併合は国際法違反だとして批判を浴びている。

<参考記事>ゴラン高原の主権をイスラエルに認めると何が問題なのか

今回の演説を前にネタニヤフ陣営は、首相から「重大発表」をすると告知し、さまざまな憶測が流れるに任せていた。中道・左派の野党勢力は、選挙違反だとして演説を差し止めるよう選挙管理委員会に訴えたが、委員会は却下した。

これに先立つ9日には、イスラエル最大の敵イランの核施設の画像を公開。これに対しても、中道連合「青と白」のベニー・ガンツ元陸軍参謀総長は、慎重に扱うべき軍事情報を票集めに利用したと厳しく批判した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中