欧州中銀は贅沢な悩みに過剰反応するな
THE ECB’S DEFLATION OBSESSION
この点、賃金が下がりにくくなること(賃金の下方硬直性)も近く問題になる可能性は低い。ユーロ圏では名目賃金が年2.5%のペースで上昇しており、雇用もこの10年間極めて力強い伸びを見せてきた。それに日本の例が示すように、賃金の下方硬直性は消えるかもしれない。
18年の日本の賃金上昇率は約2%と、過去20年超で最大の伸びを見せた月もあった。その後突然下がり始めたが、それでも雇用は引き続き増加し、失業率は下がり続けている。従ってECBなどの「物価の上昇がやや穏やか」という問題は、贅沢な悩みだ。物価上昇率が目標を下回っていても、失業率は記録的な低水準にあり、借り手はハッピーだ。ヨーロッパとアメリカでは、名目賃金が下がる気配はないし、日本では問題を引き起こしそうにない。
そう考えると、中央銀行、とりわけECBが、より拡張的金融措置を取ろうと焦る理由が分からない。確かに主要指標は、世界経済が景気後退に向かっていることを示唆しているが、新たな金融緩和が需要を刺激し、物価上昇を促すとは思えない。ECBはデフレリスクを過剰に警戒するのをやめて、堅実方針を維持するべきだ。
(編集部注:ECB理事会は9月12日、3年半ぶりの利下げを決定。昨年12月に終止符を打ったばかりの量的緩和も再開することを決めた)
<本誌2019年9月24日号掲載>
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※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。