新たな衝突で幼児含む民間人3人死亡 インドネシア、パプア問題の情勢悪化
こうしたなかでの17日の衝突による一般住民の死傷者発生だけに、パプア人の治安部隊への反発、そして"懐柔策"と同時に強硬策を進めるジョコ・ウィドド大統領への反発がさらに今後高まることが予想される事態となっている。
各地で続く身柄拘束などの強硬手段
インドネシア国内ではパプア情勢に関する報道は政府による「報道抑制」の影響もあり、地味になりつつあり、増派されて治安回復に当たっている軍や警察が遠隔地の山間部で実際に何をしているのかが伝わりにくくなっているのが事実。
こうしたなか「独立派に肩入れして情報を国際的に発信している」として東ジャワ警察などが9月4日に弁護士で人権活動家のフェロニカ・コマンさんを「民族の対立を扇動する情報発信と拡散をしている」として犯罪容疑者に認定した。これには国際社会が素早く抗議の声を上げているが、インドネシア側は「聞く耳持たず」の状態を続けている。
さらにパプア州の州都ジャヤプラの空港に近いセンタニ地区で17日には独立運動の活動家ら2人が身柄を拘束されたほか、ジャカルタ南部のデポック警察署にパプア人学生6人が拘束され、弁護士も面会を拒否されているとの報道もあり、各地で治安当局によるパプア人への締め付けが強化されていることが裏付けられている。
パプア報道の難しさに各メディア直面
今回のパプア州での幼児や少女を含むパプア人住民の殺傷事件も軍による発表以外に情報を確認するのが困難な状況となっている。つまり「武装メンバーが家屋に入った」「武装メンバーはジャングルに逃走した」などという軍の主張を客観的に確認する術はほとんどないのが現状で、インドネシアの報道機関も「軍の発表」と情報の出所を明確にすることで事実の断定には慎重になっている。
こうした厳しい状況の中で人権団体のメンバーや人権活動家が独自の情報ネットワークで現地の状況を発信しようとしているが、それが治安当局の神経を逆なでして「インターネットの制限」「現地訪問の規制」さらに「活動する弁護士の容疑者認定」「独立運動関係者や学生の身柄拘束」などに繋がっているものとみられている。
4月の大統領選で再選続投を決め、10月1日から新政権による政権運営を始めるジョコ・ウィドド大統領にとってパプア問題は頭の痛い喫緊の課題となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など