最新記事

認知症

電磁波ヘッドギア、わずか2か月でアルツハイマー病の認知機能低下が改善

2019年9月26日(木)19時40分
松岡由希子

専用ヘッドギアによる電磁気療法で、アルツハイマー病患者の認知パフォーマンスが向上 NEUROEM THERAPEUTICS, INC.

<アメリカの研究者が独自の専用ヘッドギアを用いた経頭蓋電磁気療法の臨床実験において、アルツハイマー病患者の認知パフォーマンスが向上したことが明らかに......>

米南フロリダ大学で教授を務めた経験を持つゲイリー・アレンダッシュ博士は、米アリゾナ州フェニックスで医療機器会社「ニューロEM・セラピューティックス」を創設し、アルツハイマー病などの神経変性疾患に対する新たな治療法として経頭蓋電磁気療法(TEMT)の研究開発に取り組んできた。

「ニューロEM・セラピューティックス」は、2019年9月17日、独自の専用ヘッドギア「メモルEMTM」を用いた経頭蓋電磁気療法の臨床実験において、アルツハイマー病患者の認知パフォーマンスが向上したことを明らかにした。

一連の研究成果をまとめた研究論文は、医学雑誌「ジャーナル・オブ・アルツハイマーディジーズ」で公開されている。

2ヶ月、1日2回、各1時間の装着で認知機能が向上した......

「ニューロEM・セラピューティックス」と南フロリダ大学との共同研究チームは、軽度から中等度の63歳以上のアルツハイマー病患者8名を対象に、2ヶ月にわたり、1日2回、各1時間、「メモルEMTM」を患者の頭部に装着させ、経頭蓋電磁気療法を実施させた。ヘッドギアの中に複数の特殊なエミッターが配置された「メモルEMTM」は、介護者によって家庭でも簡単に経頭蓋電磁気療法を実施でき、治療中もほとんど制約なく、自由に動き回ることができる。

研究チームは、各被験者について、治療前、治療直後、治療完了から2週間後のそれぞれの認知機能の状態を診断した。その結果、経頭蓋電磁気療法は被験者8名全員に安全であり、そのうち7名は、認知機能を評価する「ADAS-cogスコア」において認知パフォーマンスの向上が認められた。その度合いは、アルツハイマー病患者の1年間の認知機能低下とほぼ一致。つまり、アルツハイマー病が1年間で認知的思考に与えた影響が、たった2か月で戻ったことになる。

このような臨床実験の結果は、マウスを対象とした実験結果とも合致している。アレンダッシュ博士は、2010年に公開した研究論文において「携帯電話と同等の電磁波を長期間にわたってマウスに照射した結果、若齢マウスの記憶障害を防止し、老齢マウスの認知パフォーマンスが改善した」との実験結果をすでに示している。

安全性や認知機能への効果をさらに検証していく

研究チームでは、今回の臨床実験の結果をふまえ、「経頭蓋電磁気療法は、脳や脳細胞にたやすく浸透し、アルツハイマー病につながる『アミロイドベータタンパク質』や『タウタンパク質』が脳細胞内で凝集するのを防ぐことにより、アルツハイマー病に直接作用する」と考えており、経頭蓋電磁気療法が「アミロイドベータタンパク質」や「タウタンパク質」のみを標的とする新たな治療法になりうると期待を寄せている。

ただ今回は、わずか8名という臨床実験でもあり、「ニューロEM・セラピューティックス」では、2019年末までに、軽度から中等度のアルツハイマー病患者150名を対象に、「メモルEMTM」を用いた経頭蓋電磁気療法の臨床実験を実施し、安全性や認知機能への効果をさらに検証していく計画だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ローマ教皇フランシスコ死去、88歳 初の中南米出身

ビジネス

IMF・世銀会合、「関税」一色に 二国間交渉が焦点

ワールド

イラン外相、22日に中国訪問 米国との核交渉巡り協

ビジネス

中国から米ボーイング機返送、2機目がグアム着=飛行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 4
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 9
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 10
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中