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韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

2019年8月27日(火)17時00分
カン・テジュン

文が大統領になって以降、脱北者の保護・支援がずさんになったと批判されている KIM HONG-JI-REUTERS

<文大統領の就任以降、韓国に定住する脱北者のケアがずさんになったと脱北者の擁護団体が主張>

韓国のソウルで7月31日、北朝鮮から脱出してきた40代の女性と6歳の息子が遺体で発見された。警察は母子が餓死した可能性があるとみている。

警察によれば、水道料金の支払い督促の連絡に返事がなかったことから、女性の自宅を訪れた水道検針員が異臭に気付いてマンションの管理人に連絡。管理人は窓をこじ開けて部屋に入り、2人の遺体を発見した。周辺の住民の話を加えて考えると、母子は約2カ月前に死亡していたと推定される。

正確な死因については解剖結果を待っているところだが、遺体が発見されたときに母子の部屋に食べ物が全くなかったことから餓死の疑いが浮上。そのため、母子の死は防ぐことができたはずだと政府を批判する声が上がっている。韓国に入国した脱北者は、政府による保護の対象となるからだ。

韓国に定住する脱北者は社会に適応できるよう、統一省傘下の北韓離脱住民定着支援事務所(ハナ院)で12週間の基礎教育を受け、その後は自治体から住宅や雇用などの支援を受ける。現行法では、脱北者は入国から5年間、保護の対象となる。

政府と警察は、母子の定住開始が2009年で、保護期間は終了していたため連絡が取れなかったと説明している。だが脱北者の擁護団体は、母子の死の責任は政府にあると主張。政府が数年前から、脱北者を不当に扱っていると批判している。

実際、文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足して以降、脱北者への政府の姿勢が差別的だと懸念する声が高まっている。

4月末~5月初めには北朝鮮自由連合とアメリカン・エンタープライズ研究所が、毎年恒例の「北朝鮮自由週間」を米ワシントンで開催。脱北者たちを招いて議論を行った。これに参加した脱北者団体「北朝鮮民主化委員会」の代表は、文が大統領になって以降、脱北者団体への支援が全て中止されたと語った。さらに彼は、政府が脱北者の経歴を調べた上で、一部だけを支援しているという噂があるとも発言している。

「懸け橋」を見捨てるな

同じくこのイベントに参加した脱北者団体「NK知識人連帯」の金恒光(キム・フンクァン)理事長は、韓国政府が特に北朝鮮の人権問題を声高に訴える脱北者を少しずつ抑圧していると語った。彼は文政権になってから、大学での講演や脱北者としてテレビに出演する機会が減ったとも話した。

このイベントでは「自由北朝鮮運動連合」の朴相学(パク・サンハク)代表も、北朝鮮の人権問題を訴えるビラ散布などの活動を控えるよう政府から要請されたと語った。

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