ミャンマー人権侵害は家庭でも「骨が折れるほど妻を殴る」
女性の保護措置が皆無
保守的で男性優位社会のミャンマーは、半世紀にわたって軍政下にあり、2015年の選挙でようやく文民政府が誕生した。
スー・チー氏を明らかな例外として、公的な指導者に女性の姿はほとんどない。スー・チー氏以外に女性の閣僚はいないし、2015年の選挙で当選した国会議員のうち、女性の比率は10%にとどまった。
半ば冗談、半ば本気で口にされる地元の格言は、「骨が折れるほど妻を殴れば、心から愛してくれる」だ。
ミャンマーの刑法はイギリス植民地時代にさかのぼる。DVに関する規定は曖昧で、その訴追に使われることはめったにない。レイプに関する規定は狭く、夫婦間は除外されている。
報復を恐れて匿名で取材に応じた28歳の女性は、「ミャンマー社会には女性を保護する措置がまったくない」と語った。
彼女は、夫の薬物使用について口論になった。自分と幼い息子を守るため、包丁を手にせざるをえなかったという。「誰に助けを求めればいいか分からなかった」
活動家らによると、保守性の強い農村地域では特に法執行部門が弱く、女性は夫の所有物であると考えられている場合が多いという。
カレン州人権擁護グループのプログラム・ディレクター、Naw Htoo Htoo氏によれば、南東部のカレン州で警察に通報されたDV事件は27件あるが、そのうち裁判となったのは1件だけだ。それ以外の事件は村の長老による仲裁を受け、暴行を加えた者には「ほとんど罰金が科されなかった」と同氏は言う。さらに、通報された事件は氷山の一角にすぎない可能性が高いという。
さらに南に下った沿岸部ののどかな町ダウェイ。31歳のKyu Kyu Winさんが、夫による暴力を語った。夫は彼女が他の男性と浮気したと非難し、髪をつかんで地面を引きずり回したという。「また一緒に暮らさなければならないとしたら、自殺するだろう」と彼女は言う。
インタビューの最中、きょうだいが口をはさんだ。「彼女の言葉は信じられない」と、彼は言う。「どうして女性の権利ばかり語るのか。男性の権利はどうなのか」
DVから被害者を保護する避難所は国内に9カ所。ダウェイにある1カ所を運営するタボヤン女性連合の事務総長Nu Nu Hlaing氏によれば、地元の警察はDVの訴えを無視するか、軽視することが多いという。
ロイターはダウェイの警察署に問い合わせたが、コメントすることを拒否された。