変装香港デモ隊が暴力を煽る――テロ指定をしたい北京
香港返還に際してトウ小平がイギリスのサッチャー首相と交渉していた時、「中国人民解放軍に関してはどうするか」という話になった。
そのときトウ小平は火の玉のような勢いで叫んだ。
「軍隊なくして何の領土か!軍隊がいてこその国家だ!」として、「一国二制度」の「一国」を強調した。こうして1993年から香港に駐留する中国人民解放軍部隊の編成が開始され、1996年1月28日に編成を完成させて深センに配備した。そして同年12月30日に「香港駐軍法」が制定され、1997年7月1日零時に香港への進駐を完了させている。
2019年7月24日、中国国防部の呉謙・報道官は記者会見で、「香港政府の要請があれば現地の中国人民解放軍が出動することが可能だ」と強調した。中央テレビ局CCTVをはじめ中国政府系メディアは、7月21日に香港のデモ隊の一部が香港にある中華人民共和国の国章を汚すなどしたことについて「これはテロ行為だ!」と激しく非難してきたが、これに関して国防部の呉謙氏は、「必要に応じて軍隊を使う用意がある」と示唆した。
一方、冒頭で述べた楊光報道官の記者会見が行われた8月12日、CCTVなど中国の政府系メディアは同じタイミングで人民武装警察部隊が深センに移動する様子を撮影した動画を公開した。人民日報は、人民武装警察部隊の任務について、「反乱、暴動、深刻な暴力事件および違法な事件、テロ攻撃およびその他、社会の安全を脅かす事態に対処する」と具体的に説明している。
なお、人民武装警察部隊は2018年1月1日零時を以て、中央軍事委員会の直轄となっている軍隊である。
何もわざわざ武装警察がテロ防止の予行演習などをしなくとも、そもそも香港に中国人民解放軍がいる。いざというときには駐香港の中国人民解放軍がいるので、武装警察の予行演習はあくまでも威嚇が目的だ。
以上より、次のようなことが推断される。
――中国の中央政府(北京)は、何としても香港のデモを鎮圧したいが、国際社会の目があるため、なかなか軍を出動させることができないで焦っている。今年は建国70周年記念。10月1日以前に解決しなければならない。そこで、デモが「テロ行為」であることが証明されれば軍の出動が許されると考えて、「テロの定義」に当てはまるように、香港警察あるいは政府や軍関係者などがデモ参加者に変装して、デモ行為の過激化を目論んでいる。
香港の若者たちが、どうかこの策謀にはまらないよう、願うばかりだ。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。