世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?
The Call of OR-7
15年に発信機の電池が切れるまでに、OR-7は2000キロを旅していた(今では8000キロを超えていると推定される)。その終わりなき遍歴の意味は今も分かっていない。
米議会は11年、共和党議員や牧場主からの苦情を受けて、アイダホ州、モンタナ州、ワシントン州東部とオレゴン州、ユタ州の一部地域で連邦法によるオオカミ保護を打ち切った。12年には米魚類・野生動植物局が五大湖西部地域とワイオミング州のオオカミを保護リストから外し、翌年には本土48州でオオカミ保護の打ち切りを提案した(アリゾナ州とニューメキシコ州のメキシコオオカミの一部は対象外)。
「今も連邦法でオオカミが保護されている州は42〜45ある」とワイスは言う。「だが一定の生息数が確認されているのは6州のみで、うち3州の生息数はごくわずか。カリフォルニア州で確認されている群れは1つだけだ」。これで法的な保護が廃止されたら、もはやオオカミが「生存に必要な個体数を回復することは不可能になるだろう」とワイスは訴える。
オレゴン州では09年時点で13頭の個体が確認されていたが、15年には州全域で12の群れが確認され、個体数は110頭(前年比36%増)に達した。すると同年11月、州当局はハイイロオオカミを州の絶滅危惧種リストから外してしまった。
現在オレゴン州にいるオオカミは推定124頭。保護活動家たちはこの数字について、絶滅の危険がないとするには到底不十分だと指摘する。「オオカミたちはかつての縄張りをようやく取り戻して繁殖し始めたところだ」とニーマイヤーは言う。
家畜を育てる牧場主にとって、捕食者のオオカミは恐ろしい存在だろう。しかし彼らの存在が環境にプラスの影響を及ぼすのも確かだ。例えばオオカミが殺したエルク(アメリカアカシカ)の死骸は、ハイイイログマやコヨーテ、ワシやカラス、カササギや何百種類もの虫たちの食料源になっている。
一般にオオカミが狩りの対象とするのはエルクとシカだが、その個体数は全米各地で爆発的に増えている。そのせいで、餌となる樹木や草地が消滅してしまった地域も少なくない。
だがオオカミによる捕食で個体数が減った地域では樹木がよみがえり、鳥たちに巣作りの場所を提供し、強い根で土壌の浸食を防いでいる。おかげでビーバーは川にダムを築くことができ、清流には魚が戻っている。
遠い昔にオオカミやピューマが絶滅した地域は対照的だ。東部諸州ではシカの数が増え過ぎて、車との衝突事故により年間約150人もの死者が出ている。保護活動家はオオカミの再導入でシカの群れが間引かれれば、事故の件数が減ると考えている。だが牧場主の多くは、そういうメリットを感じていない。彼らは州当局がオレゴン州にいるオオカミの実数を偽っていると確信している。