最新記事

野生動物

世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?

The Call of OR-7

2019年8月16日(金)16時53分
ウィンストン・ロス(ジャーナリスト)

成長したオオカミは、群れに残ってアルファ(群れの最上位オオカミ)に従って生きるか、自分の群れをつくるかを選ぶ。後者の場合はアルファに戦いを挑むか、さもなければ群れを離れて伴侶と縄張りを探す旅に出る。

OR-7は遍歴の道を選んだ。たいていの雄は160キロ程度のところまでしか行かないが、彼は2歳の時点で1000キロ以上も移動していた。どこかにとどまることもできたはずだが、彼は旅を続けた。

野生動物の常として、オオカミにとっても「種の保存」は至上命題だ。OR-7は移動経路に尿でマーキングをし、時々引き返しては自分の匂いの上に雌の匂いがないかを確認していた。だが、つがいとなる雌はなかなか見つからなかった。

OR-7が新たな土地に移動するたび、その様子は報道や彼を追跡する団体の通知メールで詳しく伝えられ、彼のファンが増えていった。ゴシップ紙に取り上げられたこともある。

生物多様性センターのアマロク・ワイスはOR-7の「スリル満点の」旅をカリフォルニア州から追っていた。01年にシスキュー郡議会が、オオカミが郡に入るのを「禁止」する決議を採択しようとしたときには、議会とやり合った。「勝手にすればいいが」とワイスは議員たちに言った。「オオカミにそんな決議は聞こえない。10年か20年もすれば、オオカミはカリフォルニアにすみ着いているだろう」

シカを捕食し樹木が回復

それから10年1カ月と3週間後。OR-7はクレーター湖の南にある自然保護区を通過してシスキュー郡に向かっていた。「すごいことだった」とワイスは言う。「一度は人間が殺し尽くした野生種が戻ってくる。この国ではめったにないことだった」

カリフォルニア州への到達は歴史的偉業と言えたが、OR-7が妻を見つける見込みは薄そうだった。「それよりも高速道路で車にひかれる羽目になる可能性のほうが高いと思っていた」と、ニーマイヤーは言う。

だが14年5月、OR-7はその予想を覆した。ローグ川・シスキュー国立森林公園の小道に設置されたカメラがOR-7を撮影した数秒後、もう1頭の別の動物に反応した。写っていたのは細身の黒い雌のオオカミ。これまで確認されておらず、識別番号もないオオカミだった。1600キロ近くを旅してようやく、OR-7はガールフレンドを見つけたのだ。

この時ワイスは、カリフォルニア州フォーチュナである会議に出席していた。雌の存在が明らかになると「部屋は歓声で沸き返った」そうだ。

同じ年、OR-7と雌の間に3頭の子が生まれた。翌年はさらに2頭。合わせて4頭以上で一緒に移動していたことから、オレゴン州魚類・野生動植物局は彼らを「群れ」と認定した。群れはOR-7の拠点とするローグ川・シスキュー国立森林公園にちなんで「ローグ・パック」と呼ばれた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米英、「包括的で持続可能な」AI目指す宣言に署名せ

ビジネス

中国乗用車販売、1月は前年比12%減 約1年ぶり大

ビジネス

欧州委員長、米関税に「相応の対抗措置」 12日に貿

ビジネス

米国の関税は容認できず、断固とした対応も=トルドー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップルは激怒
  • 3
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観察方法や特徴を紹介
  • 4
    世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍…
  • 5
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 6
    0.39秒が明暗を分けた...アルペンスキーW杯で五輪メ…
  • 7
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 8
    極めて珍しい「黒いオオカミ」をカメラが捉える...ポ…
  • 9
    便秘が「大腸がんリスク」であるとは、実は証明され…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 5
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 6
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中