世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?
The Call of OR-7
異例の長距離移動で伝説に
99年、アイダホ州のオオカミ専門家カーター・ニーマイヤーは雌のオオカミを捕獲し、発信機を取り着けた。しばらくしてオレゴン州のオオカミ管理チームの責任者から電話があった。いわく、「やあ、お宅のオオカミがうちに入ってきたぞ」。52 年ぶりにアイダホからオレゴンに越境したのは、その雌だった。
オレゴンでOR-2と名付けられたそのオオカミは同州北東部に移動し、08年に相手を見つけた(相手の雄はOR-4)。夫婦となった2頭は群れと共にワローワ山脈に落ち着いた。09年にOR-2は出産。その1頭がOR-7と命名された。
OR-7はもうすぐ10歳。たいていの野生オオカミの2倍の年月を生きている。しかし彼をレジェンドにしたのは「果てしない旅路」だ。餓死せず、銃で撃たれず、車にひかれることもなく「移動し続けている」とニーマイヤーは言う。「オオカミはしばらく群れから離れても、いずれは故郷に戻ると思われていた。しかしこのオオカミは遠く離れたカリフォルニアで、種の急速な回復を推し進めている」
OR-7の遍歴は数多くの新聞が取り上げ、少なくとも3冊の本が出版された。カリフォルニア州は今後何十年にもわたるオオカミの管理計画を立てなくてはならなくなった。
筆者はスティーブンソンと一緒に、OR-7の群れのねぐら近くにあるミルマー牧場に向かった。オーナーのテッド・バーズアイが数日前、周辺でオオカミの遠ぼえを聞いたという。車を走らせながら、スティーブンソンはOR-7に着けた発信機をチェックしたが、やはり反応はない。彼がオオカミを追う理由は、家畜が被害を受けないよう牧場主に警告するためでもある。
オオカミが家畜を襲うのは「もし、の問題ではない」と、バーズアイは言う。「いつ、だ。当然ながら襲う。美しい動物だが、彼らは殺す側。オオカミにはふさわしい場所がある。私の土地は勘弁してほしい」
ただし、バーズアイはオオカミを憎んではいない。動物行動学の職に就こうと考えたが、10年ほど学校で歴史を教えた後に牧場主に転じた。知人にオオカミ繁殖家がいて、死んだ家畜を餌として寄付していたそうだ。代わりに子オオカミをもらい、「17年も飼っていた」という。野生ではとても不可能な長寿だ。老衰で死んだ、とバーズアイは言う。「いい思い出だ」
バーズアイは一度、OR-7を目撃している。彼の牧場の外をのんびり歩いていたという。「私がトラクターを止めると、彼はこっちを見た。それから回れ右して、ゆっくり立ち去った。悔しそうだったな」