最新記事

アメリカ経済

FRB利下げの意外な理解者は、オバマ時代の議長イエレン

YELLEN AGREES WITH TRUMP

2019年8月5日(月)18時55分
ベンジャミン・フィアナウ

イエレン前FRB議長(右)は現議長のパウエル(左)の決断を支持する形に(今年1月) CHRISTOPHER ALUKA BERRYーREUTERS

<2015年にそれまで10年近く実施されていなかった利上げに踏み切ったイエレンは、今回の利下げの3日前、小幅の利下げは適切だと述べていた>

トランプ米大統領が熱烈に望んでいた利下げに、いささか意外な理解者がいた。オバマ前政権時代にFRB(連邦準備制度理事会)議長を務めたジャネット・イエレンだ。

FRBは7月31日、政策金利を0.25%引き下げることを決めた。利下げは金融危機直後だった2008年以来となる。

イエレンは利下げ直前の7月28日、コロラド州アスペンで開かれたフォーラムに参加。トランプ政権による貿易戦争で世界経済は痛手を負ったと語るとともに、アメリカの物価上昇率は低過ぎると指摘した。

さらにイエレンは、小幅の利下げは適切だと述べた。世界経済の減速が予想され、利下げは米中貿易戦争がもたらす弊害を軽減することに役立つ可能性があるという読みだ。

「アメリカは孤島ではない。世界経済の一部だ。ヨーロッパやアジアなど、他の地域で起こることはアメリカにも影響を与える」とイエレンは語った。「世界経済は勢いを失っている。理由の一端は貿易摩擦と、それによる不確実性が企業活動に生じていることだろう」

2015年12月、FRB議長だったイエレンは、それまで10年近く実施されていなかった利上げに踏み切った。目指したのは、金利を本来の水準に戻すこと。そうすれば将来の政権が景気の下降局面に遭遇しても、利下げで対応する余裕が生じる。

その「将来の政権」を担うトランプは、じかにFRBに意見する。例によってツイッターを駆使し、自ら指名したパウエルFRB議長に対して批判を繰り返してきた。パウエルは、トランプの利下げ要請を何度も拒否したと語っている。

そんな応酬の中、トランプは7月26日にこうツイートした。「4~6月期のGDPは2.1%増。FRBという重い首かせがあることを思えば悪くない。インフレもほとんどなし。アメリカは躍進する!」

多くのエコノミストと同じく、FRBが7月31日に利下げを決めることを予測していたかのようだ。もっともトランプは下げ幅には不満らしく、利下げの翌日に「いつものことだが、パウエルにはがっかりだ」とツイートしている。

<2019年8月13&20日号掲載>

【参考記事】FRB利下げ期待に浮かれる米国株 最高値を更新した市場に潜む「落とし穴」
【参考記事】トランプの公約「財政赤字の削減」は大嘘だった

2019081320issue_cover200.jpg
※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中