電気代に悩む時代が終わる? 卒FITで日本の電力事情はどう変わるか
さらに高い価格を提示しているのは、パナソニックとNTT西日本子会社のNTTスマイルエナジー(大阪市)の連合。パナソニック製の蓄電池とNTTの太陽光発電監視システムなどを新たに導入すると、最大で1キロワット時当たり16円で買い取るという。丸紅もシャープ製蓄電池の購入を条件に最大14.6円で購入する。いずれも、自社の売り出し中の蓄電池と組み合わせることにより、高値で電気を買い取るとうたうメニューである。
こうした高額設定は7、8月、立て続けに発表された。11月を前に今後も新たなメニューで卒FIT対象の家庭を取り込もうとする動きが出てきそうだ。
発電コストは低下の一途
ただ、引き続き売電するにしても、1キロワット時48円に比べれば、10円台の買取額は見劣りし、インセンティブは湧きにくい。さらに、その価格での買取が保証される期間も「2年間」などと限定されており、変更はあり得る。買取額は発電コストとの見合いで、基本的に低下していく傾向にある。
そのため、つくった電気を売却するより、自宅用に回そうとする動きも一段と広がっていくと見込まれる。効率的な自家消費には、天候による発電量の多寡や生活パターンに応じた必要量の変化に合わせ、需給を調整できる蓄電池が重要な役割を果たす。
その意味で、上記のパナソニックやシャープのように、蓄電池を組み入れた販売戦略は顧客ニーズを捉え、理に適っているとも言える。2社のほか、東電系と組む京セラは自社製の蓄電池を、住宅側の初期費用ゼロで設置するサービスを4月に始めた。利用者は毎月定額料金をTEPCOホームテック(東京)に支払うが、10年間の契約満了後は、機器が無償譲渡される。
さらに、蓄電池とともに普及が期待できるのがEV(電気自動車)だ。EV自体を「動く蓄電池」と見立てて利用しようとする実証実験も横浜市など各地で進んでいる。
こうした取り組みを経て実用化の道が開ければ、欧米に先行事例がある「VPP」(バーチャル・パワー・プラント)や「P2P」と呼ばれる電力の個人間取引も実現していくと期待される。そのためには、太陽光発電に取り組む住宅の絶対数をさらに増やし、点在する住宅同士を線で結び、面的な広がりをつくり上げていかなければいけない。まさにこれからの課題だ。
経産省の説明資料などにたびたび引き合いに出される資源総合システム(東京)の試算によると、住宅用太陽光の1キロワット時当たりの発電コストは17年実績で既に15円となり、「系統の電気代よりも安い水準に達し」ている。さらに2030年には5.4円の「回避可能原価付近まで下がる」とみている。
日本の電気料金は1キロワット時当たり24円と言われる現在、その調子で発電コストが下がる前提に立てば、電気事業者から買わずに、太陽による自家発電で賄うのも一考の価値があるだろう。家庭の電気代に悩まなくて済むほどに安く調達できる時代は、すぐそこまできているのかもしれない。
南 龍太
「政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。また、流通や交通、電機などの業界、東日本大震災関連の記事を執筆。現在ニューヨークで多様な人種や性、生き方に刺激を受けつつ、移民・外国人、エネルギー、テクノロジー、Futurology(未来学)を中心に取材する主夫。著書に『エネルギー業界大研究』(産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。お問い合わせ先ryuta373rm[at]yahoo.co.jp」
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