最新記事

イスラエル

ソーダストリームが、ユダヤ・パレスチナ共存の未来を切り開く

Business as Diplomacy

2019年7月24日(水)17時48分
クリスティナ・マザ

だが批判派に言わせれば、ソーダストリームのネゲブ進出はユダヤ人による入植を常態化させる動きであり、経済的な新植民地主義にほかならない。

「イスラエルには(ソーダストリームと)よく似た発想で、経済協力を通じて和平が実現できると主張した政治家がたくさんいる」と、ヘバーは言う。「最も有名なのは(前大統領の)シモン・ペレスだ。彼はそれを『新しい中東』と呼んだが、この構想は新植民地主義の一形態として批判を浴びた。バーンバウムの主張もそれと大して変わらない」

ただの偶然かもしれないが、ソーダストリームのグローバル広報を担当するヤエル・リブネは以前、ペレスの副報道官を務めていた人物だ。

NW_SDS_042.jpg

ハト派として知られたペレス HEINZ-PETER BADERーREUTERS


批判はあるものの、ソーダストリームがパレスチナ人とベドウィンの労働者を積極的に管理職に起用しているのもまた事実だ。例えばラハトの工場では、24歳のベドウィン女性が男性たちのチームを率いている。

5月末のある暑い日、世界中から集まった記者や招待客がバーンバウムの案内でこの工場を見学した。その後に工場では「平和祭り」が行われ、招待客や労働者にイフタールのディナーが振る舞われた。イフタールとは、日の出から日没まで飲食を断つラマダンの間、日没後に初めて取る食事のことだ。

ソーダストリームがこの食事を用意したのには訳がある。同社は14年、イフタールに関連した争議で40人ほどの労働者を解雇し、批判の嵐にさらされた。

ラマダンで朝から絶食していた夜勤の労働者らが工場に十分な食べ物が用意されていないことに怒り、「暴力的なストを決行した」(当時の管理職の弁)。工場内への食べ物の持ち込みは禁止されていたからだ。ラインの責任者は家に帰って食事をするよう指示したが、その指示に従った労働者は翌日解雇された。

騒動から5年後、ソーダストリームが2000人分も用意したイフタールは招待客が驚くほど盛大な祝宴だった。食事の前後には、凝った演出で感動を盛り上げる政治集会のようなイベントが催された。

家族同様に大切な会社への感謝の思いを、従業員が涙ながらに語る。子供たちが歌を披露し、従業員に親しみを込めてダニエルと呼ばれるバーンバウムを褒めたたえる。「私のお父さんはソーダを作っているけど、本当は毎日、平和をつくっているんだって」小さな女の子が壇上で誇らしげに叫んだ。

巨大スクリーンに飛び立つハトが映し出され、さらには本物のハトの群れが食卓を囲んだ人々の頭上に放たれた。「ソーダストリームは荒地に花を咲かせます」。壇上に立った従業員の1人が大真面目にそう宣言した。

デービッド・フリードマン駐イスラエル米大使もこのイベントに出席。「これは真の平和であり、実効性ある手本だ」と、手放しの称賛を贈った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相「勝利まで戦う」、ハマスへの圧力強化

ワールド

対米関税交渉、日本が世界のモデルに 適切な時期に訪

ワールド

米イラン、核合意への枠組みづくり着手で合意 協議「

ワールド

プーチン氏が復活祭の停戦宣言、ゼレンスキー氏「信用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中