ソーダストリームが、ユダヤ・パレスチナ共存の未来を切り開く
Business as Diplomacy
だが批判派に言わせれば、ソーダストリームのネゲブ進出はユダヤ人による入植を常態化させる動きであり、経済的な新植民地主義にほかならない。
「イスラエルには(ソーダストリームと)よく似た発想で、経済協力を通じて和平が実現できると主張した政治家がたくさんいる」と、ヘバーは言う。「最も有名なのは(前大統領の)シモン・ペレスだ。彼はそれを『新しい中東』と呼んだが、この構想は新植民地主義の一形態として批判を浴びた。バーンバウムの主張もそれと大して変わらない」
ただの偶然かもしれないが、ソーダストリームのグローバル広報を担当するヤエル・リブネは以前、ペレスの副報道官を務めていた人物だ。
批判はあるものの、ソーダストリームがパレスチナ人とベドウィンの労働者を積極的に管理職に起用しているのもまた事実だ。例えばラハトの工場では、24歳のベドウィン女性が男性たちのチームを率いている。
5月末のある暑い日、世界中から集まった記者や招待客がバーンバウムの案内でこの工場を見学した。その後に工場では「平和祭り」が行われ、招待客や労働者にイフタールのディナーが振る舞われた。イフタールとは、日の出から日没まで飲食を断つラマダンの間、日没後に初めて取る食事のことだ。
ソーダストリームがこの食事を用意したのには訳がある。同社は14年、イフタールに関連した争議で40人ほどの労働者を解雇し、批判の嵐にさらされた。
ラマダンで朝から絶食していた夜勤の労働者らが工場に十分な食べ物が用意されていないことに怒り、「暴力的なストを決行した」(当時の管理職の弁)。工場内への食べ物の持ち込みは禁止されていたからだ。ラインの責任者は家に帰って食事をするよう指示したが、その指示に従った労働者は翌日解雇された。
騒動から5年後、ソーダストリームが2000人分も用意したイフタールは招待客が驚くほど盛大な祝宴だった。食事の前後には、凝った演出で感動を盛り上げる政治集会のようなイベントが催された。
家族同様に大切な会社への感謝の思いを、従業員が涙ながらに語る。子供たちが歌を披露し、従業員に親しみを込めてダニエルと呼ばれるバーンバウムを褒めたたえる。「私のお父さんはソーダを作っているけど、本当は毎日、平和をつくっているんだって」小さな女の子が壇上で誇らしげに叫んだ。
巨大スクリーンに飛び立つハトが映し出され、さらには本物のハトの群れが食卓を囲んだ人々の頭上に放たれた。「ソーダストリームは荒地に花を咲かせます」。壇上に立った従業員の1人が大真面目にそう宣言した。
デービッド・フリードマン駐イスラエル米大使もこのイベントに出席。「これは真の平和であり、実効性ある手本だ」と、手放しの称賛を贈った。