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「れいわ新選組」報道を妨げる「数量公平」という呪縛──公正か、忖度はあるのか

2019年7月19日(金)19時00分
小暮聡子(本誌記者)

――泡沫候補をどう報じるかについて、過去の判例はどう判断しているのか。

1986年2月12日に東京高裁で、ざっくり言えば、泡沫候補は無視してもいいという判決が出ている。一方で、これは「自由に報道していい」という判決だった。


(東京高判1986. 2. 12、判時1184. 70)
有力候補に焦点をあわせ、いわゆる泡沫候補を軽視する選挙レポートの是非が争われ、「選挙に関する報道又は評論について、政見放送や経済放送と同じレベルにおける形式的な平等取材を要求しているとは解し得ない」と判示した。(山田健太、『法とジャーナリズム 第3版』学陽書房、2014年)

――泡沫候補を無視してもいいし、取り上げてもいい、という判決だと。

もちろんそうだ。もっと言うと、放送で言うならば「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が2017年に2016年の参議院比例代表選挙を振り返り、選挙報道については自由であるべきだと、わざわざ表明したくらいだ。

放送倫理検証委員会「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」(2017年2月7日、BPO)の中で、BPOはこう書いている。


そもそも選挙に関する報道と評論の目的は、有権者が誰に投票するのか、どの政党に投票するのかを決める判断材料を提供するために、立候補者や政党の政策、政治家としての資質、選挙運動の状況などの情報を伝えることにある。そして、このような目的に照らせば、多数の立候補者の中から有力とみられる候補や、注目されるべき政策を掲げた候補など一部の立候補者を重点的に取り上げる番組を編集し放送することは、放送倫理として求められる政治的公平性を欠くことにはならない。 重要なのは、選挙に関する報道と評論にあたって放送局が複数の立候補者の中から特定の立候補者を重点的に取り上げる場合には、各放送局がそれぞれに定めた合理的基準に基づいて番組を制作・放送することである。

私は、これだけ山本太郎現象がニュースになってくればそのうち報道はすると思う。むしろ、その報道の仕方のほうが問題だ。山本太郎現象を「現象」だと言って面白おかしく取り上げるのか、きちんと彼の政策をまっとうな政策として取り上げるのか、その違いが重要だと思う。

――前回の米大統領選をニューヨーク支局で見ていたのだが、当時アメリカの主要メディアはひたすらドナルド・トランプを追いかけ、トランプのメディア露出は急激に増えた。後から振り返れば、トランプは金額に換算すると約56億ドル分のCM枠をタダで手に入れたようなものだったという(調査会社メディアクオントの推計)。この反省から、今年トランプが大統領選に出馬すると表明した際、CNNとMSNBCは生中継の演説を途中で打ち切った。例えばいま山本太郎現象が起きていたとして、日本のテレビが数量公平はさておき何か意味がありそうだとこぞって放送し始めたら、それ自体が「現象」を作ることになるかもしれない。テレビにはそれほどの影響力がある。報じるか、報じないかを、どういった「合理的基準」で測るのかが難しいところだと思う。何を基準に考えればいいのだろうか。

私は単純に、選挙期間中に限らず、日本の場合はテレビも新聞も、自由に報じればいいと思っている。特に新聞は放送法の制約もないわけだから、原則は好きに書けばいいと思う。自分の責任でいいと思ったことについて自由に書くのが一番いいというのが私の基本スタンスだ。

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