最新記事

選挙報道

「れいわ新選組」報道を妨げる「数量公平」という呪縛──公正か、忖度はあるのか

2019年7月19日(金)19時00分
小暮聡子(本誌記者)

――テレビは放送法と公職選挙法、新聞は公職選挙法という、法的根拠に基づいて各党、各候補者について公平に報じようとしている、と。

公職選挙法は、放送についての条項と新聞・雑誌についての条項が別々にある。放送については第151条の3。新聞は第148条。放送法では、第4条で番組編集の基準として「政治的公平さ」を規定している。


【公職選挙法】
(選挙放送の番組編集の自由)
第百五十一条の三 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、日本放送協会又は一般放送事業者が行なう選挙に関する報道又は評論について放送法の規定に従い放送番組を編集する自由を妨げるものではない。ただし、虚偽の事項を放送し又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)
第百四十八条① この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

読めばわかるように、ここには「自由を妨げるものではない」と書かれており、公職選挙法は選挙報道の自由を定めている法律だ。「但し、......公正を害してはならない」と書いてあるが、条文は主として自由を定めている。

公職選挙法が規定している「公正さ」、つまり公正に報道しなさいというのは、あくまで「但し書き」だ。本則の条文には、選挙報道は自由ですよと書いてある。わざわざ選挙報道は自由です、ということを定めている条文にもかかわらず、なんとなく但し書きのほうの、公正さを担保しましょう、というほうがメインになってしまっている。但し書きと原則が逆転してしまっているという状況が、今の日本の選挙報道にあると思う。

では「公正な報道」とは何を指すのかというと、基本的には党派性によらない、恣意的にならない、という公正さだ。だが、党派的とか恣意的にならないというのは主観的な要素を免れない部分がある。そのため外部から、特に候補者から文句を言われたときに困らないようにと、外形的な平等さを守る、つまり数量公平を重んじるようになっている。

実際のところ、ここ数日のNHKは、夜のニュースの参院選特集の中で「密着・党首の選挙戦」と題して、各党について順番に報じている。きっちり秒数を測ったわけではないが、NHKはおおよそ議席数に配慮してやっていると思う。例えば自民党の安倍晋三党総裁と立憲民主党の枝野幸男代表が特集された回では、安倍氏の時間は長く、枝野氏は短かった。完全に議席数に基づいてやるならもっと差が開くのだろうが、それでも時間に相当差はつけている。

公職選挙法における公正さを気にするあまり但し書きを原則化してしまい、外形的な数量公平を図ろうと努力し、それが結果的に少数政党に不利になってしまっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中