最新記事

イラン核合意

核合意「違反」論争でイランの言い分が正しい理由

Iran Is Right

2019年7月18日(木)11時20分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

イランの最高指導者ハメネイ師はトランプに一歩も譲らない姿勢を示している(テヘラン、2017年) NAANIN TABATABAEE YAZDIーTAMAーREUTERS

<合意から勝手に離脱した米トランプ政権がイランの「違反」を非難する矛盾と危険>

ドナルド・トランプ米大統領の外交政策が破綻している兆候は、多くの領域で見ることができる。イランとの核合意をめぐる論争も例外ではない。この問題でとりわけトランプ政権がぶざまなのは、政治的にも、外交的にも、法的にも、イランの主張のほうが正しいことだ。

現在問題となっているのは、イランが7月に入り、核合意が定める濃縮ウラン貯蔵量の上限と、ウランの濃縮レベルの上限という2つの条件に違反したことだ。これを受けトランプ政権は、イランが再び核兵器開発に乗り出したと主張している。その大筋は間違っていない。だが、いくつか留意すべき点がある。

第1に、そして最も明白なことに、核合意に先に違反したのはアメリカだ。トランプは18年5月、アメリカの核合意からの離脱を発表した。国連の査察官は、イランが合意を遵守していると繰り返し指摘したが、トランプは聞く耳を持たなかった。

バラク・オバマ前大統領の時代にまとめられたこの合意が「気に入らない」ということ以外に、これといった理由は見当たらなかったが、トランプはイランに対する経済制裁を復活させた。さらにイランと取引を行っている国に対する「二次的制裁」も再開した。これは核合意の当事国であるイギリス、フランス、ロシア、中国、ドイツ、そしてEUも例外ではない。

第2に、アメリカが核合意を離脱しても、イランはすぐには合意に違反しなかった。核合意36条は、イランは他の締約国が同合意に基づく「約束を果たしていない」と考える場合、一定の手続きを経た上でこの不履行を「自らが約束の履行を停止する根拠」にできると定めている。

トランプが合意から離脱し、制裁を復活させたことは、アメリカはもはや核合意の約束を果たさないと宣言したに等しい。二次的制裁により、他の締約国もこれにしぶしぶ従った。このため36条に基づき、イランは自らも核合意の履行を停止することができる。

核爆弾製造には遠い

第3に、実のところトランプは、離脱を宣言するずっと前から核合意に違反していた。17年7月の20カ国・地域(G20)首脳会議で、トランプは同盟国の首脳たちに、イランとの取引をやめるよう圧力をかけた。

これは、核合意29条に真っ向から違反している。同条によれば、アメリカをはじめとする締約国は、「核合意の履行を妨げないという責務に反して、イランとの貿易・経済関係の正常化に直接的な悪影響を与えることを意図した政策は避けなければならない」と定めているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中