キッチン用品と交換で顔データ収集 中国で急成長の産業
弱いプライバシー保護法制、安い人件費
データ収集・分類産業の主要な中心地として台頭しているのが中国だ。共産党政権の支援を受けた新興のAIセクターからの飽くことのない需要が支えとなっている。中国政府は、AIを経済成長の原動力、社会統制のツールと考えている。
多くの企業が、いわゆる機械学習と呼ばれるAI分野に巨額の投資を進めている。データのなかにパターンを見出すことを基礎とする、顔認識テクノロジーなどのシステムの柱となる部分だ。
こうした企業のなかには、アリババ・グループ・ホールディングや騰訊控股(テンセント・ホールディングス)、百度(バイドゥ)といった巨大テクノロジー企業もあれば、AIに特化したセンスタイム・グループや音声認識の科大訊飛(アイフライテック)といった比較的新しい企業もある。
結果として中国では、顔認識テクノロジーに基づく決済システムから自動監視システム、さらには国営メディアに登場したAIで動くアニメによるニュースキャスターに至るまで、AI製品・サービスが増殖している。
中国国内の消費者はこうしたテクノロジーを斬新で未来的なものと受け止めることがほとんどだが、プライバシー侵害の程度が高いアプリケーションに関しては懸念の声も一部で上がっている。
中国がAI分野でのグローバル・リーダーをめざすうえで、プライバシー保護法制の弱さと人件費の安さは競争優位となっている。河南省の村の住民たちは、数回の撮影をこなしてティーカップを、あるいは数時間の撮影と引き替えに鍋をもらって満足している。
顧客は海外にも
有力なデータ分類企業であるベーシックファインダーは、北京に本社を置いているが、河北省、山東省、山西省にも拠点を有し、国内外でしっかりとした顧客基盤を築いている。
同社の北京本社を訪れたところ、何人かのスタッフが眠そうな人々の画像を分類していた。居眠り運転をしそうなドライバーを特定するための自動運転プロジェクトに使われる予定だという。
他のスタッフは、欧米のオンライン祖先検索サービス向けに英国の19世紀以降の文書の分類作業を行っており、出生証明書・死亡証明書の日付、氏名、性別の欄にマーキングを施していた。
ベーシックファインダーのデュー・リンCEOによれば、熟練した分類スタッフを中国で雇用する方が、西側のクラウドソーシング市場を利用するよりも安上がりだという。
プリンストン大学による自動運転関連プロジェクトでは、当初アマゾンのメカニカル・タークに業務を委託していたが、業務が複雑になるにしたがって受託者がミスをする例も増えてきたため、結果の修正を支援するためにベーシックファインダーに声がかかった、とデュー氏は言う。
このプロジェクトでは、クラウドソーシングで集めたスタッフ3人分の業務を、ベーシックファインダーの熟練分類スタッフ1人で処理できたという。「我々に委託する方が分類業務のコストが安くなることが徐々に分ったので、最初からすべてを我々に発注することになった」
プリンストン大学はコメントを控えている。