機密情報の漏洩を止める最善策は、スパイの処罰ではなく「許し」
The (Spy) Doctor Is In
スパイはなぜ寝返るのか。そして、その大半が男なのはなぜか。本誌の記者だったエバン・トーマスはかつて、CIAの離反者を「上司を裏切ることで留飲を下げる自己嫌悪にまみれた不満分子」と評した。
だが、そうした行動の裏には「男のプライドとエゴ」があるとチャーニーは指摘する。結婚生活や仕事で大きな挫折を味わうと、男たちは自分を負け犬だと思い込む。怒りや悲しみのはけ口を見つけられずに鬱々とした日々を送り、「どん底の精神状態」に陥る。
「酒に頼る男も、不倫に走る男も、心を病む男もいる」。彼は世界政治研究所の聴衆に語り掛けた。「だが中には『俺が悪いんじゃない。悪いのは職場の連中だ。人生がめちゃくちゃになったのは奴らのせいだ』と逆恨みし、復讐を誓う男もいる」
最悪の裏切者に効果的
プロのスパイなら、ひそかに敵のスパイと接触する場所も方法も心得ている。しかし最初の高揚感(莫大な報酬、昨日までは敵だった諜報機関での厚遇、復讐を遂げた満足感)が薄れれば負け犬気分に逆戻りだ。
新しいボスからの締め付けは厳しい。二重スパイから足を洗おうとすれば脅迫される。もはや逃げ場はない......。
そんな時こそNOIRの出番だ。裏切者が同僚に気付かれず、こっそり相談できるよう、NOIRはCIAなどの本部から離れた場所に設けるのがいいと、チャーニーは言う。
当然、チャーニーの提案には否定的な反応も多い。「コメントする価値もないほどばかげている」と、FBIで長年にわたりスパイの摘発を手掛けてきたマイク・ロシュフォードは言う。「民主的な法治国家においては、重大な法律違反を犯した者は服役させるのが大原則だ」
CIAの元作戦担当官で、その後にFBIのテロ対策上級顧問を務めたケビン・ハルバートも「最悪のアイデア」だと酷評する。「連続殺人犯を捕まえられそうにないから、殺人をやめることへの同意と引き換えに過去の殺人については免罪にするというようなものだ」
チャーニーの友人だという諜報機関の元高官(匿名を希望)も否定的だ。「NOIRのような部署が組織内にあるとなったら、二重スパイの誘惑に負ける人が増えるだろう。敵に機密情報を売って私腹を肥やし、うまくいかなくなったら、また寝返ればいいのだから」。この提案はまだ内部で十分に検討されていない、ともこの人物は言う。
チャーニーもこうした批判は承知している。「諜報コミュニティーの考え方は警察や検察と似て」おり、「一線を越えた悪い奴」を捕まえることに重点が置かれていると、彼は言う。
セキュリティー対策を請け負う民間業者の間でもNOIRの評価は低い。二重スパイがぞろぞろ自首してきたら、彼らの誇る「ハイテクを駆使したプログラム」の出番がなくなるからだ。