船に乗った? ホッキョクギツネがノルウェーからカナダまで3500キロ移動
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GPS首輪を装着して衛星で追跡した Elise Stromseng/Norwegian Polar Institute
<ノルウェーの研究チームの調査で、ホッキョクギツネがノルウェーからカナダ最北部までの3500キロメートルの行程をわずか76日間で移動したことがわかった>
若い雌のホッキョクギツネがノルウェーのスヴァールバル諸島からカナダ最北部のエルズミア島までの3506キロメートルの行程をわずか76日間で移動したことがわかった。
GPS首輪をつけて、衛星で追跡した
ノルウェー極地研究所(NPI)とノルウェー自然研究所(NINA)との研究チームは、ホッキョクギツネがスヴァールバル諸島からエルズミア島まで移動した様子を衛星で追跡し、2019年6月24日、極域科学に関する学術雑誌「ポーラー・ジャーナル」でその追跡結果をまとめた研究論文を発表した。
Published this morning: "Arctic fox dispersal from Svalbard to Canada: one female's long run across sea ice" https://t.co/vUvu4NbPEj This is the first satellite tracking of natal dispersal by an Arctic fox between continents. Authors: Eva Fuglei and Arnaud Tarroux pic.twitter.com/gowSov0OBA
— Polar Research (@PolarResearch) 2019年6月25日
研究チームは、2017年7月14日、スヴァールバル諸島で最大のスピッツベルゲン島の西海岸クロスフィヨルデンでホッキョクギツネにGPS首輪を装着し、その行動を衛星で追跡しはじめた。
ホッキョクギツネは2018年3月26日、スピッツベルゲン島を発ち、21日後の4月16日、1512キロメートル離れたグリーンランドに上陸した後、さらに移動を続けて6月6日にはグリーンランドを離れ、7月1日にエルズミア島で定住した。3月26日から7月1日までの76日間で移動した距離は3506キロメートル。
ホッキョクギツネがクロスフィヨルデンから移動しはじめた3月1日以降、スピッツベルゲン島の東海岸を離れる3月26日までの移動距離を加算すると、3月1日から7月1日までの4ヶ月で4415キロメートルを移動したことなる。これまでに記録されたホッキョクギツネの移動距離としては最長だ。
1日155キロ! 「船に乗った?」しかし、周辺に船はなかった
移動距離の長さだけでなく、移動速度にも注目が集まっている。ホッキョクギツネは、1日あたり平均46.3キロメートルのペースで、北極海の海氷を渡り、グリーンランドの氷河を超え、一時はグリーンランド北部の北緯84.7度の地点に到達し、やがてエルズミア島にたどり着いた。グリーンランド北部では、ホッキョクギツネの移動速度として史上最速の1日あたり155キロメートルで移動したこともわかっている。
研究論文の筆頭著者であるノルウェー極地研究所のエヴァ・フグリイ博士は、ノルウェー放送協会(NRK)の取材に対して「最初は信じていなかった。ホッキョクギツネが死んでしまい、船にのせられたのだろうと考えていたが、そのエリアに船はなかった。非常に驚いた」と追跡当時の様子を振り返っている。
温暖化で海氷消失したらどうなる......
3506キロメートルにわたるホッキョクギツネの移動において重要な役割を果たしたのが氷だ。ホッキョクギツネは、海氷のおかげで、厳しい冬に食料を求めて他の地域へ移動できる。地球温暖化に伴って北極海の海氷面積が縮小傾向にあるが、この現象は、ホッキョクギツネなどの野生動物にも深刻な影響をもたらすおそれがある。
ノルウェーのオーラ・エルヴェストゥーエン気候・環境大臣は「この研究成果は海氷が北極の野生動物にとっていかに重要かを示すものだ。北部での温暖化は恐るべき速さですすんでいる。北極で夏の海氷が消失しないよう、温室効果ガスの排出量削減に取り組まなければならない」とコメントを寄せている。