最新記事

移民問題

乱立する「国境の壁」資金調達 全米33万人からの寄付金は行方不透明に

2019年7月9日(火)09時55分

だが、クレーマー氏のキャンペーンもすでに「壁」に突き当たっている。クレーマー氏の計画では、集まった寄付金を国土安全保障省(DHS)に送金し、「壁」建設に使ってもらうつもりだった。だがDHSは資金を受け取れないとして、クレーマー氏に「(DHSには)現時点では外部からの寄付金を処理するリソースがない」と説明した。

ホジソン保安官はクレーマー氏に対し、保安官協会はすでにDHSに働きかけており、煩雑な手続きを突破できる可能性があると話した。11月、ホジソン保安官は「ファンド・ザ・ウォール」に代わってDHSに申請書を提出した。ロイターが閲覧した書類には、10万ドルをDHSに寄付するとして、「(同省は)この贈与を、米国の南の国境上の障害物(たとえば壁)の建設にのみ用いることができる」と明記されている。

DHSは、外部からの贈与を処理する部署ではこの書類を確認していないとして、「寄付の状況について提供できる情報は何もない」と述べている。ホジソン保安官は、状況を確認するために改めてDHSに連絡を取ると話している。

成功例「ウィー・ビルド・ザ・ウォール」

さて、ナーンバーガーさんはさらに100ドルを別の「壁」資金調達キャンペーンに寄付している。こちらは、2018年12月にクラウドファンディングサイト「ゴー・ファンド・ミー」で立ち上げられたプロジェクトだ。

この取組みは当初「We The People Will Fund The Wall(我ら市民が壁の資金を出す)」と名乗っており、負傷により両脚・片腕を失って米空軍を退役したブライアン・コルフェッジ氏が主宰するものだった。コルフェッジ氏は以前、右派メディアサイトを運営する企業を経営し、数百万ドルを稼いでいた。同氏の「壁」資金調達キャンペーンは、トランプ氏の選挙対策本部長だったスティーブ・バノン氏やカンザス州の元州務長官クリス・コバチ氏など著名な移民反対派による後ろ盾を得て、1カ月間で2000万ドルを集めた。

当初、コルフェッジ氏は集まった資金を政府に寄付すると宣言していた。だが1月になって彼は「ゴー・ファンド・ミー」のページの説明文を更新し、民間建設業者と契約して独自に「壁」を築くことに決めたと発表し、資金調達キャンペーンのタイトルも「ウィー・ビルド・ザ・ウォール」に変更した。

「ゴー・ファンド・ミー」の規約では、このような場合、寄付者は自らの出資分を返金してもらえることになっていた。だが1400万ドル分に相当する大半の寄付者は、そのまま資金をコルフェッジ氏に委ねた。新たに1100万ドルの寄付も集まり、現在の調達額は2500万ドル以上に達している。

5月末、コルフェッジ氏はプロジェクトの最初の成果を明らかにした。ニューメキシコ州サンランドパーク市の米・メキシコ国境近くの民有地に、鉄製のボラード・フェンスを建設するという。コルフェッジ氏は着工式典でテープカットを行った。

コルフェッジ氏によれば、この「壁」には約750万ドルの費用がかかったというが、ただちに難題に直面した。サンランドパーク市当局が、同プロジェクトが正式な許可を得ていないとして工事停止命令を発行したのだ。これに対してコルフェッジ氏は数千人の支持者に対し、サンランドパーク市当局は麻薬カルテルと共謀していると主張し、建設の継続を認めるよう市当局者に圧力をかけるよう呼びかけた。

その後2日で市当局は、建築基準をすべて遵守することを条件に、強引に建設許可を下した。サンランドパーク市の当局者はコメントを拒否している。

この「壁」の長さは半マイル(約800メートル)で、サンランドパーク市に近い国境を完全に封鎖するには至っていない。映像には、数マイル先で移民が国境を越えている様子が映っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中