最新記事

移民問題

乱立する「国境の壁」資金調達 全米33万人からの寄付金は行方不透明に

2019年7月9日(火)09時55分

「壁」建設費用をクラウドファンディングで

政府のアナリストらは、2000キロ(約1300マイル)以上にわたる「壁」を追加して国境を封鎖する必要性について懐疑的だ。2016年の議会調査部による報告書は、フェンスや障害物を増やしていっても効果は逓減していき、設置・保守のコストは増大していくと結論づけている。

そもそも、建設費用そのものが膨大だ。国土安全保障省の内部報告によれば、216億ドルだ。

それにもかかわらず、「壁」を増やすことを望む熱心な支持者からの出資を募るため、いくつかの資金調達キャンペーンがスタートしている。

ロングアイランドにある貯木場の総支配人を務めるレイ・ニュルンベルガーさんは、結婚資金を貯め、最初の子どもの養育費を準備する一方で、この1年間で3つの「壁」資金調達組織に300ドル以上を寄付した。

「今後も寄付を続ける。自分の子どもが仕事を見つけられず、合法的にこの国に来たわけでもない人々と競争しなければならないという状況は嫌だ」と46歳のニュルンベルガーさんは語った。

彼の寄付金がどこに行ったか、見てみよう。

彼が最初に寄付したのは、2018年にワシントン州のケン・ダウニー氏が設立した非営利組織「ボーダーウォール・ファウンデーション」だ。ダウニー氏は国境警備局の広報官を務めたこともある退役軍人で、この活動は10代の娘のための社会教育のつもりだと話している。親子はウェブサイトやソーシャルメディア上のページを開設したが、集まった資金はわずか2450ドル。口座に預けたまま、さらに募金活動を続けるという。

「いつか、もうウンザリして中止を決め、天を仰いで『私たちには無理だった』と嘆くとしても、集まった資金は、『壁』建設をめざす別の取組みに寄付する」とダウニー氏は語った。

ニュルンベルガーさんが次に100ドルを寄付したのは、全米郡保安官協会が、「税額控除対象となる皆さんの寄付金は、100%、我が国の南の国境の安全確保に使われます」と銘打って2018年3月に開始した「壁」資金調達キャンペーンだ。

だが、寄付集めのための管理業務は徐々に同協会の手に余るようになり、また保安官の一部には、トランプ氏が掲げる「壁」構想に異を唱える声もあった。

2018年9月、協会は、その時点で総額2万5000ドルとなっていた資金を別の非営利キャンペーン「ファンド・ザ・ウォール」に寄付することを決定した。このキャンペーンはメリーランド州のIT専門家クエンティン・クレーマー氏が開始したもので、トランプ氏が大統領選に出馬する前に、すでにウェブサイト用のドメインネームを登録していた。

保安官協会の資金がクレーマー氏のグループに送金され始めた日、マサチューセッツ州ブリストル郡のトーマス・ホジソン保安官がFOXテレビの番組に出演し、保安官協会が募金用に作成したウェブサイトを宣伝した。クレーマー氏によれば、この週で寄付金は10万ドルに達したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中