最新記事

トルコ

25年ぶりの野党勝利、イスタンブール新市長が圧勝した理由

2019年7月1日(月)11時15分
ポール・オスターランド

市内ベイリドゥズの広場でイマモールの勝利を祝う支持者たち KEMAL ASLAN-REUTERS

<反エルドアンというより、AKP市政の下での経済混乱――。頭脳流出が止まらないトルコ最大の都市をイマモールは救えるのか>

去る6月23日、トルコ最大の都市イスタンブールで行われた市長選の「再投票」で、野党・共和人民党(CHP)候補のエクレム・イマモールが再び勝利を手にした。しかも今回は文句なしの圧勝だ。

その1週間前、与党・公正発展党(AKP)候補のビナリ・ユルドゥルム元首相はテレビ討 論で、イスタンブールの人口は減っている、AKPのおかげでアナトリア半島の生活インフラが整備され、故郷に戻る人が増えたからだ──と主張した。

だが事実は異なる。昨年、約60万の市民が転出したのは事実だが、転入者も同じくらいで、自然増と合わせれば総人口は微増だった。転出者の増加も、地方のインフラ改善の成果ではなく、AKP市政の下でイスタンブールの住環境が悪化し、経済が混乱したせいだ。

「転出増の主な理由は国全体の深刻な景気後退だろう」と言うのは米デューク大学のティムール・クラーン教授。「職を失った人が故郷に戻っている。生まれ育った土地なら、何かと助けてくれる人もいるからだ」

国政に転出する前のレジェップ・タイップ・エルドアン(現大統領)以来、イスタンブールの市長職は四半世紀にわたりAKP系の人物が独占してきた。しかしAKPの市政には無駄な支出が多く、保守的な宗教団体への補助金も多かった。一方で通貨リラの下落は都市住民を直撃し、輸入品を中心とする物価の高騰で生活必需品にも手が出ない市民が増えていた。

加えて、2016 年のクーデター未遂事件以降には治安対策の強化で大勢の知識人や公務員などが職を追われ、やむなく市外や国外に逃れた。こうした頭脳流出の影響は、これから出てくるのかもしれない。

コンクリート化にそっぽ

今回の再投票で、イマモールは全39選挙区のうち、伝統的にAKPの地盤とされる選挙区も含め、28区で勝利した。与党候補との票差は1回目の1万3000票から約80万票へと大幅に開いた。イスタンブールには「新しい血」が必要だという市民の思いが反映された結果だ。

1950年代以来、イスタンブールにはアナトリア半島の全域から夢多き人々が集まってき た。当時100万人程度だった人口は20世紀末に1000万人に達し、昨年段階で1500万人を超えた。新しい住民たちが切り開いた居住地の一部は、今や立派な住宅街に発展した。一方で、AKP市政下の再開発で取り壊され、大企業や富裕層向けの高層ビルに生まれ変わった地区もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中