最新記事

核戦争

米ロ核増強でよみがえる『博士の異常な愛情』の悪夢

U.S. Military Said Using Nuclear Weapons Could Have ‘Decisive Results’

2019年6月20日(木)16時52分
トム・オコナー

カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地で試験発射された大陸間弾道ミサイルICBMミニットマンⅢ(2015年) Joe Davila/U.S. Air Force

<米ロが徐々に核増強に転じるなか、米軍が公開してすぐ削除した書類には、キューブリック作品で核使用の有効性を説くストレンジラブ博士が登場していた>

米軍が公開してすぐ削除した報告書がある。そこには、実戦における核兵器使用の有効性を論じた内容が含まれていたようだ。

統合参謀本部が先週公開した非機密文書「核兵器:計画立案と標的設定」は、米国防総省のウェブサイトからすぐに削除されたが、全米科学者連盟がその前にコピーを保存した。政府の機密計画の分析を専門とするスティーブン・アフターグッドは、そこに書かれた「ストレンジラブ風の一節」に注目した。ストレンジラブとは、米ソの核戦争の危機を風刺したスタンリー・キューブリック監督の1964年の映画『博士の異常な愛情』の主人公、ストレンジラブ博士のことだ。

問題の一節は、「核兵器の使用は、決定的な結果と戦略的な安定の回復のための条件を創出する。具体的には、戦闘領域を根底的に変え、指揮官が戦いで優位に立つ方法に影響を与える条件を創り出す」というもの。

しかも、この報告書の冒頭には、1960年代初めに核戦争について論じ、ストレンジラブ博士のモデルとなったことでも知られる未来学者のハーマン・カーンの以下の言葉が引用されている。「私の予想では、今後100年間のいずれかの時点で核兵器が使用されるだろうが、広範囲の無制限な使用ではなく、小規模の限定的な使用となる確率がはるかに高い」

<参考記事>朝鮮有事想定、米軍核搭載爆撃機26年ぶりの臨戦態勢へ準備

中国も巻き込みたいトランプ

2017年にドナルド・トランプが大統領に就任すると、本誌はその後の数カ月に2回にわたって、『博士の異常な愛情』さながら、衝動的な指導者が核攻撃を命じてしまう事態に警鐘を鳴らす論説を掲載した。過去何十年も核戦争はフィクションの世界の悪夢ですんできたが、ここ数年アメリカとロシアが互いの軍縮条約違反をあげつらうようになり、現実の世界でも核の使用に対する歯止めが効かなくなりつつある。

<参考記事>もし第3次世界大戦が起こったら

米政府は、ロシアが1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約に違反し、射程範囲500〜5500キロのミサイル・システムの開発を進めているとして、今年2月同条約からの離脱を通告。ロシア側も、米軍がルーマニアに配備したミサイル迎撃システム、イージス・アショア(その後ポーランドにも配備)は攻撃にも使用できるため、同条約違反であると主張し、離脱を表明した。

トランプは米ロの核軍縮条約に中国も入れたい考えだ。そのため米政府は2021年に期限切れとなる新戦略兵器削減条約(新START)の更新に向けた交渉を延期してきた。だが、米ロに比べ核兵器の保有量が大幅に少ない中国は、米政府が2015年のイラン核合意など核拡散防止のための既存の国際協定すら尊重していない現状(アメリカは2018年にイラン核合意から一方的に離脱した)では、そうした交渉には「一切」応じられないと明言している。

<参考記事>中国の核融合実験装置(人工太陽)で太陽の約7倍にあたる1億度を達成

米ロはまた、カーンが使用を予測し、その後も多くの専門家が使用される可能性が高いと警告してきた「低出力核兵器」の開発についても、非難合戦を繰り広げている。ロシアはまた、トランプ政権が2017年に発表した「核体制の見直し(NPR)」を核軍縮に逆行すると批判。米側も、ロシアが開発した新型の極超音速巡航ミサイル(アメリカのミサイル防衛網を突破できるとされる)は条約違反だと主張している。

<参考記事>ロシア「撃ち落とせない極超音速ミサイル」を実戦配備へ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中