インドネシア「大統領選無効」憲法裁審理続く 野党連合崩壊で政界再編
今後の焦点は政治的和解と治安維持
今後はジョコ・ウィドド大統領とプラボウォ氏による大統領選を戦った両者による直接会談で「和解」が実現するか、あるいは憲法裁の判決後もなおプラボウォ陣営が選挙結果受け入れを拒否して闘争を続けるのかが最大の政治課題となる。
大方の予想では憲法裁が判決を出す6月28日前後に直接会談が実現し、大統領選を巡る政治的混乱が収束に向かうとみられている。
このためプラボウォ氏は、強硬姿勢を続けるイスラム急進派や元軍人らの取り巻き、さらに多額の資金提供をしたとされるアラブ人脈などをどこまで説得することができるかが問われることにもなる。
さらに治安問題も横たわる。選管の集計発表を受けて5月21日、22日にジャカルタ中心部はプラボウォ支持派による抗議デモが暴徒化して騒乱状態なり、死者8人、逮捕者400人以上を出す事態となった。
現在、騒乱を背後で操り社会を混乱に陥れようと謀った組織、メンバーの捜査が続いているが、プラボウィ氏に繋がる元陸軍秘密部隊関係者の暗躍が指摘されている。
憲法裁の実質審理が始まった14日にも憲法裁前にはプラボウォ支持派が押しかけてデモを行い、大きな混乱は起きなかったものの、今後憲法裁が判決を下す6月28日に向けてデモなどが再び激化することも予想される。5月の騒乱事態を受けて治安部隊は最大限の厳戒態勢で臨むとしており、インドネシアでは静かにしかし確実に社会不安が高まりつつある。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
※6月25日号(6月18日発売)は「弾圧中国の限界」特集。ウイグルから香港、そして台湾へ――。強権政治を拡大し続ける共産党の落とし穴とは何か。香港デモと中国の限界に迫る。