最新記事

日本社会

抵抗なければ合意? 相次ぐ性犯罪「無罪判決」に法改正求める切実な声

2019年6月18日(火)17時32分

声をあげることすら困難

日本での#MeTooムーブメントは控えめなものだった。性暴力を受けたときに被害届を出す人はわずか2.8%。被害者が落ち度を責められたり、公の場でつらい思いをさせられたりするためだ。

多くの場合、被害者は被害を誰にも明かさない。2017年の内閣府男女共同参画局の調査によると、性行為を強要された女性の6割近くは、誰にも言わなかったという。

精神科医の白川さんは、「過去の判例がひどすぎて、私の患者たちはみな恐れており、自分の事件を立証するのは不可能だと感じている。抵抗したか否かではなく、性的同意がなかったということが問題にならない限り、彼らは泣き寝入りするしかない」と語った。

村田弁護士は、立て続けの無罪判決によって、司法制度を頼ろうという意欲はさらに失われるだろうと指摘する。

「被害者は警察、検察、裁判所と話をするなかで、あまりに性犯罪の要件が厳しく、有罪になりづらいため、途中でつらくなってしまう。私が相談を受けた被害者の中にも、これだけ無罪判決が出るならば、結局どれだけ訴えてもどうしようもないと思う人もいる。判決の波及効果は非常に大きい」

専門家らは、法的責任とは別に被害者の負担となるのが、貞操を守るのは女性自身の責任であるという伝統的な考え方だと指摘する。法律専門家らは、日本の性犯罪に関する刑法は女性が投票できない時代に制定されており、法の主な目的は一族の名誉と家系を守ることだったという。

村田弁護士は「ぎりぎりまで女性がセックスを拒否すべきだという考え方が根本にあるから、こういう判決が出てしまう」と語り、社会にはいまだに女性の「ノー」を「イエス」と考え、セックスの前に女性の合意があるかを軽視する風潮があると述べた。

2017年の法改正

2017年の改正刑法では、「強制性交」の定義に肛門性交と口腔性交が含まれ、男性も被害者に含まれるようになった。また、法定刑の下限が懲役3年から5年に引き上げられ、被害者の告訴がなくても起訴できるようになった。

また、親や監護者が18歳未満の人をレイプした場合、暴行や脅迫がなかったり、抗拒不能の状態ではなくても罰せられることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中