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中東世界の石油タンカーの交差点ホルムズ海峡 ゲリラ攻撃に対策はあるか
6月14日、中東海上交通の要衝ホルムズ海峡でタンカーへの攻撃が相次ぎ、米国とその同盟国は同海峡を航行する商船の護衛に乗り出す必要に迫られそうだ。写真はホルムズ海峡で、石油タンカーのそばを飛ぶヘリ「MH-60S」(2019年 ロイター/Hamad I Mohammed)
中東海上交通の要衝ホルムズ海峡でタンカーへの攻撃が相次ぎ、米国とその同盟国は同海峡を航行する商船の護衛に乗り出す必要に迫られそうだ。
ただ、敵対勢力は機雷を使うなどゲリラ的な手段に訴えており、米国などが護衛に踏み切った場合でも打つ手は限られる。
世界の石油タンカーの約2割が航行するホルムズ海峡の近海では、ノルウェーと日本のタンカー2隻が攻撃を受けるなど、この1カ月間に2度の襲撃でタンカー6隻が被害を受けた。
米高官2人は13日、米国が国際的な船舶交通の保護に向けて複数の選択肢を検討していると明かした。うち1人はタンカー襲撃について「終わったとは考えていない」と述べ、まだ続く可能性があるとの認識を示した。
ただ3人の中東筋によると対策の選択肢は限られ、(1)1980年代のイラン・イラク戦争時にタンカーが次々と攻撃された際などに実施した商船護衛体制を徐々に導入する(2)武器使用の対象や種類を定めた交戦規定を見直す(3)機雷の掃海を行う─の3つだという。
ある中東筋は、米国などはシーレーンとその周辺の安全強化に向けて商船の護衛や交戦規定改定の必要性に言及していると指摘。最終的に米以外の国が艦艇を派遣する可能性はあるが、まだ国連内部で検討されている段階で、動きは遅いという。
別の関係筋も、ホルムズ海峡は狭いのに船舶の航行が多く、米国と同盟国はタンカーへの護衛派遣の実行可能性を検討すべきだと述べた。
ホルムズ海峡の最も狭い部分は幅が33キロメートルしかない。
オックスフォード・リサーチ・グループのリチャード・リーブ最高責任者(CEO)は、戦力差のある相手にゲリラ戦などを仕掛ける「非対称戦争」を回避するのは、手作り爆弾や自爆攻撃を防ぐようなものだと指摘した。
ノルウェー船主協会のジョン・ハマースマーク会長も「この海域で脅威が発生すると船舶を守るのは非常に困難だ」と述べ、対策を取るべきは国際社会、とりわけ各国政府であり、事態が悪化すれば船舶の航行が少なくとも部分的に停止すると警鐘を鳴らした。
専門家の間からは、今後の流れは対イラン制裁を再開したトランプ米大統領がどのようにイランと合意するかにかかっているとの声が聞かれる。
ドバイのシンクタンク、近東・湾岸軍事分析研究所(INEGMA)のリヤド・カフワジCEOは、国際社会が米政府に働き掛けて対イラン制裁を緩和させるか、タンカー攻撃の継続でイランへの国際的な圧力が高まるかのいずれかと予測。「もし戦争になれば国際社会対イランという構図になるだろう。1国のみでイランと対峙したい国はない」と述べた。また、その場合には船舶の保護で西側諸国が負担を背負うことになり、とりわけ米国に重荷が集中するが、フランスと英国も負担を免れないとした。
イラン・イラク戦争時の1984年にはタンカーが次々と攻撃されて「タンカー戦争」の様相を呈した。ロイズの推計によると、この時は商船546隻が被害を受け、民間の船員約430人が死亡した。
先の湾岸筋は「今回は戦争状態にはなっておらず、状況が異なる。問題はどのように海域を守り、それがいつまで続くかだ」と語った。
Ghaida Ghantous, Rania El Gamal
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