最新記事

中東

世界の石油タンカーの交差点ホルムズ海峡 ゲリラ攻撃に対策はあるか

2019年6月18日(火)13時00分

6月14日、中東海上交通の要衝ホルムズ海峡でタンカーへの攻撃が相次ぎ、米国とその同盟国は同海峡を航行する商船の護衛に乗り出す必要に迫られそうだ。写真はホルムズ海峡で、石油タンカーのそばを飛ぶヘリ「MH-60S」(2019年 ロイター/Hamad I Mohammed)

中東海上交通の要衝ホルムズ海峡でタンカーへの攻撃が相次ぎ、米国とその同盟国は同海峡を航行する商船の護衛に乗り出す必要に迫られそうだ。

ただ、敵対勢力は機雷を使うなどゲリラ的な手段に訴えており、米国などが護衛に踏み切った場合でも打つ手は限られる。

世界の石油タンカーの約2割が航行するホルムズ海峡の近海では、ノルウェーと日本のタンカー2隻が攻撃を受けるなど、この1カ月間に2度の襲撃でタンカー6隻が被害を受けた。

米高官2人は13日、米国が国際的な船舶交通の保護に向けて複数の選択肢を検討していると明かした。うち1人はタンカー襲撃について「終わったとは考えていない」と述べ、まだ続く可能性があるとの認識を示した。

ただ3人の中東筋によると対策の選択肢は限られ、(1)1980年代のイラン・イラク戦争時にタンカーが次々と攻撃された際などに実施した商船護衛体制を徐々に導入する(2)武器使用の対象や種類を定めた交戦規定を見直す(3)機雷の掃海を行う─の3つだという。

ある中東筋は、米国などはシーレーンとその周辺の安全強化に向けて商船の護衛や交戦規定改定の必要性に言及していると指摘。最終的に米以外の国が艦艇を派遣する可能性はあるが、まだ国連内部で検討されている段階で、動きは遅いという。

別の関係筋も、ホルムズ海峡は狭いのに船舶の航行が多く、米国と同盟国はタンカーへの護衛派遣の実行可能性を検討すべきだと述べた。

ホルムズ海峡の最も狭い部分は幅が33キロメートルしかない。

オックスフォード・リサーチ・グループのリチャード・リーブ最高責任者(CEO)は、戦力差のある相手にゲリラ戦などを仕掛ける「非対称戦争」を回避するのは、手作り爆弾や自爆攻撃を防ぐようなものだと指摘した。

ノルウェー船主協会のジョン・ハマースマーク会長も「この海域で脅威が発生すると船舶を守るのは非常に困難だ」と述べ、対策を取るべきは国際社会、とりわけ各国政府であり、事態が悪化すれば船舶の航行が少なくとも部分的に停止すると警鐘を鳴らした。

専門家の間からは、今後の流れは対イラン制裁を再開したトランプ米大統領がどのようにイランと合意するかにかかっているとの声が聞かれる。

ドバイのシンクタンク、近東・湾岸軍事分析研究所(INEGMA)のリヤド・カフワジCEOは、国際社会が米政府に働き掛けて対イラン制裁を緩和させるか、タンカー攻撃の継続でイランへの国際的な圧力が高まるかのいずれかと予測。「もし戦争になれば国際社会対イランという構図になるだろう。1国のみでイランと対峙したい国はない」と述べた。また、その場合には船舶の保護で西側諸国が負担を背負うことになり、とりわけ米国に重荷が集中するが、フランスと英国も負担を免れないとした。

イラン・イラク戦争時の1984年にはタンカーが次々と攻撃されて「タンカー戦争」の様相を呈した。ロイズの推計によると、この時は商船546隻が被害を受け、民間の船員約430人が死亡した。

先の湾岸筋は「今回は戦争状態にはなっておらず、状況が異なる。問題はどのように海域を守り、それがいつまで続くかだ」と語った。

Ghaida Ghantous,  Rania El Gamal

[ドバイ 14日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中