最新記事

農業

自然災害に盗難・殺人 銀より高い「バニラ」その知られざる裏事情

2019年6月11日(火)16時05分

バニラの「ダークサイド」

「グリーン・ゴールド(緑の金)」と呼ばれることもあるバニラの需要は極めて高く、盗難や殺人事件も起きている。

「バニラのダークな側面だ。スイートなものなので、あまり知られていないけれど」と、ベン&ジェリーズ事業に携わるシェリル・ピント氏は言う。同社はほとんどのアイスクリームに加え、クッキー生地などにもバニラを使っているという。

ピント氏は、「社会的使命」を持って同社のサプライチェーンを任されているという。

ウガンダではバニラの収穫を守るため、「農夫は夜、畑で眠る。殺人や暴力事件が起きたこともある。ひどいものだ」と、彼女は言う。

ウガンダ政府は今月、収穫期日を設定した際に、価格高騰で「盗難や人命の損失」が起きていると訴えた。

暴力は双方向で発生している。ロイターは昨年、マダガスカルの生産者が、取り押さえた窃盗容疑者に暴行して死亡させた事件を報じている。

バニラが貴重なのは、生産に多大な手間がかかるからだ。

新芽が花をつけるまでに3-4年かかるほか、受粉できるのは年間数日だけで、夜明け前の4時間に手で行わなければならない。開花から出荷までは平均して16-18カ月必要で、600輪の花を手作業で受粉しても、乾燥バニラビーンズは1キロしか取れない。

芽が花を付けるには、土台となり日陰を提供してくれる木に根を絡ませなければならない。また生産地は、赤道付近に限られる。

マコーミックが扱う「バーボンバニラ」が、世界で最も人気があるという。古くはメキシコで栽培されたが、この100年余りで、マダガスカルにおいて、そのほとんどが生産されるようになった。他所の農家は、時間がかかりデリケートなバニラ栽培は、不確実性や価格変動を考えれば割に合わないと考えたからだ。

プラット氏は、インドネシアでどの程度生産すれば市場価格が鎮静に向かうのか分からないという。

マダガスカルでバニラ輸出を手掛けるタムフンマン・トンボ氏は、他の産地では十分な生産はできないとみている。

「30年以上バニラの仕事をしているが、これまでもバイヤーが他の産地を探している、他国の生産者と協力を始める、などと聞かされてきた」とトンボ氏は語る。「その手の揺さぶりには慣れているので、あまり怖くない。インドネシアでは、マダガスカルほど良質のバニラは取れないだろう」と付け加えた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中