対イラン「圧力路線」の放棄で、米外交の迷走が浮き彫りに

トランプ(左端)の意向を忠実に代弁しようとしてきたポンペオ(右隣)だが LEAH MILLISーREUTERS
<「前提条件を付けない」話し合いに突如転換──イランとの対話自体は好ましいことだが......>
ポンペオ米国務長官がイランに対する姿勢を突如一変させた。6月2日、トランプ政権が「前提条件を付けずに」イラン政府と話し合う用意があると表明したのである。
これまでポンペオは、米政府がイランと話し合いのテーブルに着く前提として12の条件を突き付けていた。全てイラン側に大幅な譲歩を強いるもので、実質的に主権の放棄を求めるものまで含まれていた。要するに、イランと話し合うつもりなどないと言っているに等しかった。
ポンペオの方針転換は、ある面では歓迎すべきことだ。イランが15年の核合意を遵守している以上、アメリカが前提条件なしの話し合いに応じない理由はない。しかし、ポンペオの豹変はトランプ外交の迷走ぶりも改めて浮き彫りにした。
トランプがイラン核合意からの離脱を表明したのは、昨年5月。イランに対する経済制裁も再開した。さらに、ほかの国がイランと取引を続ければ制裁の対象にするという脅しまでかけた。トランプはこれを「最大限の圧力」と呼んだ。
イランへの圧力路線が有効な政策だったかは怪しい。圧力が強まれば、イラン国民の現体制への支持は強まる。しかも、たとえ現体制が崩壊しても、新たに権力を握るのは保守強硬派か軍部の可能性が高い。
圧力が通用しなくなる?
それに、「最大限の圧力」は、対北朝鮮政策で好ましい結果を生まなかった。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を話し合いのテーブルに引き出すことには成功したが、金は何の譲歩もしなかった。
いずれにせよ、今回のポンペオの豹変により、トランプ政権の「最大限の圧力」が一時的なはったりにすぎないことが露呈した。イランに限らず、今後この圧力路線の標的になる国は、しばらく待てば、しびれを切らしたトランプが折れてくると計算できるようになった。
対イラン政策の軟化は、5月に入ってから始まった。このままでは戦争になりかねないと、トランプは突然気付いたらしい。自分に電話するようイラン指導部に呼び掛けてもいる。
ポンペオはこの2年半、最初はCIA長官として、その後は国務長官として、トランプの意向に忠実な発言をするよう努めてきた。1年前にトランプがイランとの対話ではなく体制変革を望んでいるように見えたときは、12項目の厳しい前提条件を突き付けた。そして今回、トランプが話し合いを望む意向を明らかにすると、ポンペオも主張を変えたのだ。