世界最大のiPhone工場もつ中国都市に景気後退の波 「一帯一路」の夢遠のく
一流大卒でも「親のすね」
北京の一流大学で電気通信分野の学位を取得し、鄭州市の不動産を手に入れ、まもなく結婚も控えている──。26歳でこうした条件すべてを満たしているWu Shuangさんは、多くの中国人の目には勝ち組と映るのが普通だ。
だがWuさんはインタビューのなかで、彼自身や、鄭州市の似たような立場の人に絶えずのしかかってくる不安について語った。
2017年にマンション購入に200万元を費やしたことで、一家の貯蓄はほとんど尽きてしまい、毎月8000元以上の住宅ローン返済も残っている。
Wuさんは昨年、勤務していた国営企業を辞めた。退屈な仕事で待遇も悪かったという。だがその後、鄭州市内でバーを開店するという計画も延期せざるをえなくなった。景気の落ち込み同市にも及び、パートナーたちが手を引いてしまったからだ。
丸顔に黒縁のメガネをかけたWuさんは、「住宅価格が高いとか、仕事を見つけるのが難しいというだけの問題ではない」と言う。「今のところ、経済が減速しているせいで、チャンスが大幅に減っているように感じられる」
Wuさんによると、若者の多くは誇りの持てる仕事を見つけ、一定の年齢までに結婚し、住宅を購入するという「チャイナ・ドリーム」を手の届かないものだと感じている。
特に不動産価格が高騰しているせいで、とっくに成人しているのに経済面で親に依存せざるを得なくなっている、とWuさんは言う。中国語で「ケンラオ」、つまり「親のすねをかじる」風潮だ。両親はマンションの頭金や月々のローンを援助してくれたが、彼らも裕福ではないだけに、心穏やかではないという。
鄭州市の新しい商業地区「鄭東新区」にあるにぎやかなカフェでアイスコーヒーを飲みながら、Wuさんは「無力感を抱いている人は多い。恵まれた生活を享受している人でも、たいていは自分の力ではなく、家族に頼っているからだ」と語る。
「給料はたいして違わないとしても、家庭の状況次第で、人生における選択肢が大幅に狭まってしまうかもしれない」
取り残された水上生活者
中国における社会階層の下のほうでは、多くの人が取り残され、懸命に働くだけでは生活が良くならないと感じている。
Sunさん一家は何世代にもわたって揚子江と黄河で船を操り、日々の漁獲で生計を立ててきた。祖父や父がそうであったように、Sun Genxiさん(44歳)とSun Lianxiさん(32歳)の兄弟も、漁船のなかで生まれた。
中国経済の成長は、兄弟に焦燥感を抱かせている。
鄭州市中心部から車で約1時間、見晴らしのいい黄河に浮かぶ船上から、2人は省都の劇的な発展を呆然と眺めてきた。
「あんな高層ビルはわれわれには何の関係もない。誰かのためのもので、私とは関係がない」とLianxiさんは言う。「我々は少しも関わっていない」
Sunさん兄弟は、人生の大半を決まった場所に定住せず、最良の漁場を見つけては船を停泊してきた。しかし10年ほど前、彼らは鄭州市北端の黄河沿いに錨を下ろした。Genxiさんの長女を学校に通わせるためである。子どもたちには学校を卒業し、代々続けて来た漁業を離れる最初の世代になってほしいと考えている。
読み書きのできないGenxiさんは、まもなく高校を卒業する娘に、「一生懸命勉強しなければ、私の現在がお前の未来だ」と話している。
Sunさん兄弟が所有していた漁船は大きく、風雨に耐えてきた屋根の下に、4世代にわたる17人の家族を楽々と収容してきた。水上レストランとして、黄河クルージングを楽しむ日帰り客に獲れたての魚を蒸して提供もしていた。
しかし地元当局は2017年、広範囲に及ぶ環境規制の一環として、水質汚染と乱獲を最小限に抑えるという名目で船を没収した。
一家は現在、黄河河岸の浮き橋上に設けられた防水布とビニールシートで作られたテントで生活し、小型船による漁業だけで暮らしている。
「夢は、住む場所を得ることだ。家族が皆その家で暮らし、私は家族のために働きに出かけ、漁業は止める」とLianxiさんは言う。
「そういう生活ができるだけでも贅沢というものだ」
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