ISIS残党がイラクを襲う
How ISIS Still Threatens Iraq
英王立国際問題研究所のレナド・マンスール研究員は、「CTSとハシェドは話すらしない」と語る。「それぞれアメリカとイランの代理とみられているため、同じ部屋に入ろうともしない。もちろん、互いの情報も共有しない。彼らは本来、ダーイシュを倒し、復活しないように共闘しなければならないのだが」
不確実な情勢を象徴するものとしてマンスールが指摘するのが、モスル市民の反応だ。「ISISから解放されて以降、モスル市民はカリフ国家の崩壊を喜んでいた。だが、いま彼らに話を聞けば(ISIS支配が終わって)2年近くたつのにまだイラク政府からの支援がないと言う」
ただ、イラク政府も内部分裂に陥っているものの、政府はある1つの認識においてはまとまっている。つまり、あまりに多くのイラク人がISISの本性に接したため、国民はISISを恐れ、嫌悪していることだ。
「14年には、この地域の部族の9割がダーイシュを支持していたが、今や1%もいない」と、アンバル州の部族戦闘員の1人、シャイフ・カタリ・シャマルマンドは言う。
シャマルマンドは、自身の部族はISISを支持しなかった数少ない部族であり、例外的な判断をしたと語る。03年にアメリカがイラクに侵攻して以降、シーア派政権がスンニ派社会を疎外したことにスンニ派は怒りを募らせていたため、スンニ派にとってはISIS側に付くことが現実的な選択肢に映ったからだ。
住民の安全は後回しに
だが、14年にISISが単なる反乱勢力からイラク国土3分の1を制圧する支配勢力へと変貌したとき「(多くの部族は)ISISが犯罪組織で、彼らにとって重要なのはスンニ派かシーア派かでなく、殺戮と破壊だと気付いた」と、シャマルマンドは言う。
ISIS支配の残虐さは、戦闘員を集める基盤を著しく小さくさせた。そして、多くの部族や市民らがイラクの治安部隊と情報を共有し始めた。
「ISISが諸地域を陥落できた理由? イラク軍が住民から好かれておらず、求められてもいないと感じたため、武器を置いて去っていったからだ」と、イラク国防省の広報室長、タシーン・アル・ハファジ少将は言う。「今は逆だ。彼らは軍を必要とし、軍と共にいる。(ISISからの)解放作戦では軍に協力した。だから協力関係は以前よりもはるかに強い」
それでもISISはイラクに戻り、襲撃を行っている。最近ではラマエドのような地元の指導者を標的にするようになった。5月上旬には、北部ニネベ州で地元指導者の家が襲撃され、指導者と親族4人が殺された。4月にも同州で簡易爆弾により部族の指導者が死亡している。
以前より弱体化したとはいえ、ISISは戦略を変え、標的を絞った攻撃で存在感をアピールするようになった。政府軍や部族の武装組織は治安の回復を目指している。だが、ISISの残党はイラク西部の広大な砂漠地帯や東部ディヤラ州のハムリン山脈、ニネベ州の辺ぴな地域などに小グループに分散して潜伏。潜伏場所を次々にたたいても、完全な掃討は困難を極める。