最新記事

テロ組織

ISIS残党がイラクを襲う

How ISIS Still Threatens Iraq

2019年6月7日(金)17時15分
ペシャ・マギド(ジャーナリスト)

以前に比べると住民から有力な情報を得られるようになったとはいえ、CTSなどが集めるのは主として敵の軍事的な動きに関する情報に限られる。だが今、イラク全域で2つの戦いが繰り広げられている。1つは軍事的な戦い、もう1つは社会的な戦いだ。イラク軍は物理的な戦いには勝利しつつあるが、孤立し、危険にさらされたアブ・テバンのような村では住民の不満が高まる恐れがある。そこにISISの残党が付け入り、盛り返しを図るかもしれない。

イラクで今も活動しているISISの戦闘員の数は1000人足らずから3000人以上とも見積もられている。しかし、推定10万人の戦闘員を抱えていた最盛期と比べると、見る影もない凋落ぶりだ。「09~10年でも、彼らは非常に大規模な、いわば産業化された武装組織だった」と、イラク専門家のナイツは言う。「イラクの一部地域では、地元の唯一の産業がISISというありさまだった」

より古典的な反乱勢力に回帰した今、ISISが行うテロ攻撃の回数は大幅に減っている。「今のダーイシュには指導部もなければ、1つの都市や広い地域を占領する能力もない」と、イラク国防省の軍事顧問を務めるモハメド・アル・アスカリ中将は言う。「ダーイシュは元の形態に戻り、スリーパー・セルを抱えて、限定的な攻撃を行うのみだ」

「今ではそう簡単にISISに加わる者はいない」と、ナイツも言う。「戦闘員もわずかで、活動範囲も狭められているから、彼らは質の高いアプローチを探らねばならない」

つまり、攻撃回数が減った代わりに、戦略的にターゲットを絞る必要があるということだ。

「彼らは過去の戦いで多くの教訓を得た。量よりも質というアプローチをうまく採用したのもその1つだ」と、ナイツは言う。「かつての華々しい戦績に比べれば、攻撃回数はごくごく少ないが、辺地で地元の指導者を暗殺するといった作戦なら実行できる」

アンバル州のシャマルマンドは同州の町バグダディ出身だ。かつてISISとの戦いとその後のISISの支配によって、彼の部族からは多数の犠牲者が出た。

軍事的解決では不十分

シャマルマンドは今、2週間に1回配下の民兵を砂漠に引き連れ、政府軍と合同でISISの残党を捜している。地元住民から得た情報を基に、戦闘員5~15人規模の潜伏場所を見つけるのだ。戦闘員は孤立した地域で洞窟やトンネルに潜んだり、民家を借りて拠点にしたりしている。

シャマルマンドはCTSとも連携し、地域の情報や接触すべき人物を教えている。彼の活動地域では、部族の武装組織が複数あり、さらにそれ以外の武装組織も多数活動している。シャマルマンドは「どの組織とも協力関係にある」と言うが、マンスールによると、武装組織はそれぞれ内部対立を抱えており、そのため住民の安全が後回しにされているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中