この10年間で一気に日本全国で顕在化した「8050問題」
引きこもりの中高年が劣等感や将来への絶望感に苛まれているケースも多い Masafumi_Nakanishi/iStock.
<親と同居する引きこもり中高年の問題は、都市部よりもむしろ地方部で深刻化している>
「8050問題」に社会的関心が高まっている。80代の老親と、引きこもりが長期化して50代の子が同居している世帯の問題だ。
中高年が親と同居する事情は様々だが、基礎的生活条件を親に依存し続けることは憂慮される。親はいつまでも元気ではない。同居している親は「自分がいなくなったら、この子はどうなるのか」と気をもんでいる。
同居している子も心中は穏やかでなく、劣等感や将来への絶望感に苛まれているケースが多い。それが暴発したのが、先月に川崎市で起きた通り魔事件だった。容疑者は叔父夫婦と同居する51歳の男性で、長らく引きこもりの状態にあったという。数日後には、年老いた元官僚が同居する40代の息子を刺し殺す事件も起きている。通り魔事件と同じような凶行を起こしかねないと危惧したためだ。
似たような状況にある人は、統計で見てどれほどいるか。2015年の『国勢調査』によると、親と同居する50代の未婚・無業男性は16万7094人となっている。50代の男性人口に占める割合は2.2%だ。50代男性の45人に1人が、親同居の未婚無業者ということになる。
この数値には地域差もある。数値に基づいて47都道府県を塗り分けると、<図1>のようになる。左は2005年、右は2015年のマップだ。
この10年間で地図の模様が濃くなっている。50代の親同居・未婚無業男性の率が2.5%(40人に1人)を超える県は、2005年では2県だったが2015年では16県に増えている。「8050問題」の裾野が広がっているのがわかる。
上位には地方周辺県が多い。雇用がないためだろうか。家が広い、親が勤勉志向で貯蓄があるなど、子をパラサイトさせる条件もあるのではないかと考えられる。
「50にもなって仕事もせず、親のすねをかじりながら実家に居座り続けるなんて」と、いぶかしく思う人もいるかもしれない。親が高齢になれば、今のぬるま湯はやがては水風呂、いや氷風呂になる。社会学者の山田昌弘・中央大教授は、著書『パラサイト・シングルの時代』(1999年)で事態を憂いて親同居税の導入を提言している。