ブレグジットがアイルランド統一を後押し 市民投票の布石に
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5月21日、英国の欧州連合(EU)離脱を控え、アイルランド島では英領北アイルランドとEUに残るアイルランドの統一に向けた動きが少しずつ始まった。写真はダブリンの街中に掲げられた、マーク・ダーカン氏の選挙ポスター(2019年 ロイター/Graham Fahy)
英国の欧州連合(EU)離脱を控え、アイルランド島では英領北アイルランドとEUに残るアイルランドの統一に向けた動きが少しずつ始まった。北アイルランドは、統一の是非を問う市民投票へと一歩ずつ近づいている。
北アイルランドが英国を抜けてアイルランドと統一する可能性はまだ小さく、市民投票も近い将来には実施されないかもしれない。しかし英国のEU離脱(ブレグジット)計画に伴い、アイルランド島の政治の情景は変化しつつある。
アイルランドの2大政党である統一アイルランド党と共和党は共に、最終的なアイルランド統一を志向してきた。両党は今、国境を越えて北アイルランドへと政治ネットワークを広げることで、市民投票への布石を打っている。
与党の統一アイルランド党は今週の欧州議会選挙で、首都ダブリン選挙区の候補者に北アイルランドの統一支持政党、社会民主労働党(SDLP)のマーク・ダーカン元党首を擁するという異例の措置に打って出た。
ダーカン氏は「ブレグジットの流れで、統一を巡る議論が高まってきた」と語る。
2016年の英国民投票で、北アイルランド市民の約56%はEU残留を支持したにもかかわらず、英国と共に離脱する予定だ。
一方、約1世紀前に英国から独立し、1973年にEUに加盟したアイルランドはEUにとどまる。
北アイルランドの世論調査では長年、アイルランド統一への十分な支持が示されてこなかった。しかし政治家や政治アナリストによると、市民の心理を統一に向かわせそうな要因が徐々に増えている。
第1の要因は、ブレグジットに伴い北アイルランドとアイルランドの間に税関などの「目に見える国境」が再出現し、20年にわたり慎重に守られてきた和平が揺さぶられるリスクだ。
政治・経済状況も影響する。最近の企業調査では、失業率が過去最低に下がっているにもかかわらず、ブレグジットを巡る不透明感を一因として、北アイルランド経済は失速している。また1998年の和平合意によって発足した自治政府は、2年以上前に崩壊したままだ。
人口動態も世論を統一寄りに変化させる可能性がある。アイルランド統一を目指す政党の伝統的支持層であるカトリック系住民が、約30年以内に北アイルランドで過半数を占めそうだからだ。
98年の和平合意の規定では、有権者の過半数が統一アイルランドへの参加を望みそうな情勢となった場合、英国政府は北アイルランドの英国残留の是非を問う市民投票を命じるよう義務付けられている。だからこそ人口動態の変化は重要だ。