最新記事

韓国

文在寅、リベラルなのに「記者たたき」に冷淡な大統領

2019年5月20日(月)11時50分
テジョン・カン

文はジャーナリストの役割を理解していない? REUTERS

<「無礼」な記者の処罰を求める署名ページが大統領府運営のサイトに作られる異様さ>

韓国の言論と報道の自由が後退している。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の就任から丸2年を迎える前日の5月9日、韓国の公共放送KBSが文とのインタビューを放送した。大統領の座に就いてからの道のりと将来への展望を文自身の口から聞くことのできる貴重な機会となるだけに、有権者にも歓迎されると思われた。

ところが、番組は思わぬ波紋を呼んだ。インタビューしたKBSのソン・ヒョンジョン記者に対して、大統領に「無礼」だという批判が殺到したのだ。

「無礼」というのは、ソンがインタビュー中に文の話を聞きながら眉をひそめ、話を遮ったとすることへの批判だった。質問内容が「不適切」という意見もあった。政府高官の物議を醸す人事をめぐり、文に「独裁者」というイメージを持つ有権者もいるが、とソンが切り込んだことも非難の的となった。

一部のネットユーザーは大統領府が運営する公式の署名サイトで、ソンとKBSへの処罰を要求する運動を展開。この記事を書いている時点で、KBSの解体を求める呼び掛けには1万4000筆、記者に正式謝罪を要求する呼び掛けには約1万筆の署名が集まり、同サイトには同様の趣旨の署名運動が少なくとも58件立ち上げられている。

「異様な事態だ」と、野党・自由韓国党の広報担当者は記者会見で語った。「記者の質問が検閲され、質問内容で自分のクビが飛ばないかどうか心配しなければならないとしたら、私たちの社会の後退を意味する」

ネット上の攻撃も擁護?

記憶に新しいのは、韓国の与党「共に民主党」が、ソウルを拠点とするブルームバーグの記者を攻撃する論評を発表した出来事だ。

きっかけは今年3月、自由韓国党の保守派議員である羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)がブルームバーグの記事を引用して、文の外交政策を批判したことだった。問題の記事は、国連総会で演説した文が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の「首席報道官」のようだったとする内容だった。

「共に民主党」は、ブルームバーグと記者を名指しし、同社で働いている韓国人らを侮蔑的な言葉で非難した。これに対してソウル外国特派員協会は、同党の行為を「大いに憂慮する」という声明を発表。アジア系アメリカ人ジャーナリスト協会も、同記者が韓国系であることに同党が言及したことを非難する声明を発表した。

こうした反発を受けて「共に民主党」は論評を撤回。文陣営も報道の自由を擁護することを約束し、どんな場合でも記者の身の安全が脅かされるようなことがあってはならないという立場を明確にした。しかし、文陣営がこの声明を発表したのは、ブルームバーグ記者がメールやSNSで文の支持者たちから執拗な攻撃を受けてからのことだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ドイツ、国防支出急拡大で冷戦後最大の投資ブーム到来

ワールド

米国、インド太平洋からの撤退「あり得ない」=台湾国

ワールド

中国全人代、5─11日開催

ワールド

米資金削減でポリオ根絶遅れも、アフガンなどで野生株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    生地越しにバストトップがあらわ、股間に銃...マドン…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中