音楽ストリーミング配信は環境に優しくない?
Music’s Carbon Footprint
音楽業界の「脱物質化」に伴い温室効果ガスの排出量はむしろ増加している URBANCOW/ISTOCKPHOTO, DELMAINE DONSONーE+/GETTY IMAGES
<レコードやCDの時代より格安に楽しめるが目に見えない環境コストは増加する一方だ>
音楽ファンがこぞってLPレコードを買いあさった時代を懐かしむ人は多い。彼らは週末になると地元のレコード店でお気に入りの1枚を買い求め、何度も聴き入った。
毎年4月の第3土曜日に開催される「レコードストア・デイ」は、ストリーミング配信が主流となった現代に生き残りを模索する実店舗を応援しようと、10年ほど前に始まった国際イベント。今でもこの日ばかりは世界各地のレコード店で、好きなアーティストの限定版を買い求める人々の行列ができる。
かつての音楽ファンは現代よりも音楽に大きな価値を見いだしていたと言われる。音楽の「黄金時代」を懐かしむベビーブーマー世代からは、現状への不満の声も聞かれる。だが、そうした指摘は事実だろうか。
納得できない私たちは、データを分析して彼らの主張の正当性を検証してみた。すると、想像以上に多くの誤解があることが明らかになった。
私たちはアメリカの音楽業界の古い資料をひもとき、LPレコードやCDなどそれぞれの時代に一世を風靡した音楽記録媒体が、経済と環境に与える負荷を比較した。その結果、まず浮かび上がったのは、音楽を所有するという贅沢のために人々が喜んで支払う金額が劇的に変化してきたことだ。
蓄音機で再生するシリンダーレコードの製造数が最多だった1907年、その小売価格は現在の貨幣価値で13.88ドルだった。47年に製造数がピークに達したSPレコードは10.89ドルだったが、77年のLPレコードの価格は28.55ドルに跳ね上がった。
その後、88年に製造数が最多となったカセットテープは16.66ドル、2000年のCDは21.59ドルと続く。しかし13年にダウンロード版が全盛期を迎えると、その価格は11.11ドルにまで低下した。
低価格化の流れは、1週間の給与に占める各音楽媒体の小売価格の割合を見れば明白だ。1977年にはLPレコード1枚の価格はアメリカの平均的な週給の4.83%を占めていたが、2013年のダウンロード版は週給のわずか1.22%だ。
音楽配信技術の登場によって音楽消費のビジネスモデルも変化している。今やスポティファイやアップルミュージック、パンドラなどのストリーミングサービスを利用すれば、週給のわずか1%余りの利用料でほぼ全ての音楽にアクセスすることができる。
巨大サーバーの電力消費
一方、環境への負荷はどう変化してきたのか。直感的には、CDなどの生産が減れば温室効果ガスの排出量も減少するように思える。
77年にアメリカの音楽業界で製造されたプラスチック製品は5800万キロ。CD全盛期の2000年には6100万キロに増加したが、ダウンロード版とストリーミング配信の普及に伴い、16年には800万キロにまで減少している。