最新記事

核・ミサイル開発

侮るなかれ、北朝鮮の「飛翔体」 新型短距離ミサイルはICBM超える脅威

2019年5月16日(木)12時00分

5月13日、1週間で2度目となった北朝鮮による9日のミサイル発射実験は、北朝鮮が韓国や米国と戦争になった場合に、迅速かつ効果的に使える短距離ミサイルの開発に真剣に取り組んでいることを示している、とアナリストらは指摘する。写真は北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)が10日に公開した写真(2019年 ロイター/KCNA)

1週間で2度目となった北朝鮮による9日のミサイル発射実験は、北朝鮮が韓国や米国と戦争になった場合に、迅速かつ効果的に使える短距離ミサイルの開発に真剣に取り組んでいることを示している、とアナリストらは指摘する。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は4日、これまで試したことのない兵器のテストに立ち会った。専門家らは、これは隠し持つのも発射するのもより容易で、飛行中に軌道を変えることができる小型で高速のミサイルだとみている。

国営メディアが10日に公開した写真からは、2度目に発射したものの中に、1度目と同じ兵器が含まれていることがわかる。

2月にベトナムのハノイで開かれた米朝首脳会談は、核・ミサイル問題について何の合意もないまま終わった。北朝鮮が再び発射実験に踏み切ったことで、緊張はさらに高まっている。

韓国の文在寅大統領は9日、発射実験は米朝首脳会談が失敗に終わったことへの不満の表れとみられると発言したが、北朝鮮はこれについて、定期的かつ自衛的な演習だと主張した。

複数のアナリストは、一連のミサイル発射は政治的な意思表示だけではないとみる。

米ジェームズ・マーティン不拡散研究センター(CNS)のミサイル専門家、グレース・リウ氏は、「2度目のテストはミサイルの発射が単に鍋をかき回し、米国からの反応を引き出して交渉を再開するためではないことを示している」と語った。

「北朝鮮は、ミサイル防衛網をかわして韓国を精密打撃できる、信頼性があり運用可能なミサイルを開発している」

ミサイル防衛網を突破

発射実験に対する米国と韓国政府の反応は慎重だった。トランプ米大統領や他の高官らは、今回使用されたものは米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではなかったと強調した。

しかしアナリストらは、北朝鮮が新型ミサイルを軍事的にどう使うのか、過小評価すべきでないと指摘する。

世界の安全保障への脅威を分析する「Datayo」の兵器専門家メリッサ・ハンハム氏は、「トランプ政権は常に、ミサイルがICBMでないからといって軽視するが、たとえ米国本土に着弾しないとしても、こういったミサイルは戦争を始めるきっかけとなる」と話す。

「これらは小型で隠しやすく、操作が簡単で、外部からはどのような弾頭を載せているかの判別ができない。核兵器である可能性もある」

米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」が8日公開した初期段階の分析リポートによると、新型ミサイルはロシアのイスカンデル「SS26」に類似しているように見え、韓国と米国それぞれの迎撃システムのすき間をつくことができる可能性があるという。

米韓はパトリオットとTHAAD(サード)2種類の迎撃ミサイルを配備し、韓国に飛来してくる弾道ミサイルと巡航ミサイルに備えているが、両システムの能力については疑問の声もある。

北朝鮮が新型ミサイルをどうやって入手したのか明らかではない。しかし、CNSによると、9日の発射実験によって迎撃システムをくぐり抜けられるよう軌道を変えることが可能で、発射の兆候を掴むことが困難であることが確認できたという。

CNSのジェフリー・ルイス氏は、「ミサイル防衛網をかわすとともに、発射基地が敵に探知されないよう、ブースト段階で少し向きを変えていることがわかる」と指摘する。

ロケットの推進装置に詳しいCNSのマイケル・ドゥイツマン氏によると、北朝鮮の国営メディアが公開した写真からは、ミサイルの姿勢を制御する噴射装置と可動フィンを備えている可能性がある。おかけでミサイルは正確に目標地点に向かい、飛行中の大半の間、軌道のコントロールを行えるという。

4日のミサイルは車輪式の移動式発射台(TEL)から発射されたが、9日のテストには道路のないところでも走行できる無限軌道式の車両が使用された。

「不拡散レビュー」編集者のジョシュア・ポラック氏は、北朝鮮にとって製造の経験がより深い無限軌道式車両を使用しているということは、今後多数のミサイルと発射装置を配置する計画があるとみる。

「北朝鮮にとっては、これが唯一大量生産できる高機能のTELだと考えられる」

アナリストらによると、北朝鮮のミサイルには固体燃料が使用されており、液体燃料を使ったミサイルよりも迅速に移動して発射ができる。

すでに緊張状態にある情勢が、新型ミサイルによってをさらに予測不可能になると、Datayoのハンマム氏は指摘する。

「もし北朝鮮がICBMを準備したら、核弾頭を載せるのは明らか。しかし小型のミサイルの場合は、(核かどうか)分からないため、事前に身構えるのが困難になる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中